| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-02 (Oral presentation)
湿原は特有の動植物をはぐくむ点から生物多様性保全上重要な生態系である。しかし特に西日本では、人間活動の衰退と遷移の進行、自然災害の多発等により、衰退傾向にある湿原が増加している。本研究の調査地とした鳥取県の湿原でも、水路の深掘れによる地下水位低下が進行し、希少種の存続が危惧されている。しかし,それら希少種の湿原内における立地特性や種間関係は明らかとなっていない。そこで本研究では、調査地に自生するラン科植物6種の現状と分布特性を調査・解析してその種間比較をおこない、今後の再生計画に役立てることを目的とした。0.6 haの調査地で、2024年の開花期にGPSもしくは地図への手書きでラン科植物の分布位置を記録した。2024年秋の群落高、2022年から計測してきた地下水位、相対積算日射量、pH、電気伝導度(EC)から、各ラン科植物分布位置における環境条件を推測した。その結果、湿原内の低EC、低pH、良好な日射量、高地下水位な環境にラン科植物分布数が多い傾向が見られた。ラン科植物は種ごとに異なる分布傾向が見られた。サギソウは低草丈、低pH、低EC、高日射量、高地下水位の良好な湿原環境に分布した。カキランは直近雨量により地下水位が変動する場所に分布し、比較的乾燥耐性が高いと考えられた。ミズチドリとサギソウはECの変動が少ない環境に分布すると考えられた。その他の種については分布を決定していると考えられる環境要因は見いだせなかった。本調査地の外縁部は乾燥化が進行し、ECとpHが高い数値を示す傾向にあった。現状では、乾燥化が進行するとラン科植物の衰退が加速することが危惧されるため、地下水位を回復することが必要である。ただし環境変化に敏感と思われるサギソウやミズチドリについては注視する必要がある。今後、共生菌との関係について検討を行う予定である。