| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-03 (Oral presentation)
乾燥地における砂丘の拡大は、砂漠化の典型的な現れとして緑化の対象とされてきた。本研究は、その一元的な見方を再考するため、砂丘の価値認識の多様性を地域、世代間の比較を通じて明らかにすることを目的とした。
モンゴル国のビゲル及びエルセンタサルハイ、中国内モンゴル自治区のナイマン及びアルホルチンという4つの牧畜地域において、計227名に対しSD法による砂丘の価値認識調査を実施した。具体的には、生態系の健全性、レクリエーション性、生産性に大別される12個の指標に、継承意識と総合的な好ましさを加えた計14個の指標を用いて、植生被覆率の異なる固定砂丘、半固定砂丘、流動砂丘の景観写真を評価した。アルホルチン以外では観光などで外部から訪れた人も対象としたため、回答者を地元住民と来訪者に分類した。計7分類の回答者グループと年齢を説明変数、各景観に対する14個の評価値を応答変数として重回帰分析を行った。回答者グループの中で、砂丘がほぼ存在しないアルホルチンを参照カテゴリーとして設定した。
結果として、年齢が下がるほど固定砂丘ではレクリエーション性が、半固定、流動砂丘ではさらに生産性、継承意識、好ましさの評価も低下する傾向が見られた。これは、特に植被の乏しい砂丘に対し、多様な価値認識が希薄化していることを示唆している。また、来訪者に比べ現地住民は全体的に評価が高く、日常的な関与の有無が価値認識に影響していることが考えられた。全体的には固定、半固定、流動砂丘の順に評価が低下したが、ナイマンの現地住民はやや特異で、固定砂丘で低い一方流動砂丘ではあまり下がらず、特に故郷意識や生産性の評価が高かった。ナイマンは長期的な砂漠化により固定砂丘の減少と流動砂丘の拡大が続いたことで、後者の利用頻度が高まり、馴染み深く価値の高い存在になった可能性が考えられた。
以上の結果は、文化多様性の保全や地域知の活用など、多角的な砂漠化対策の必要性を示唆している。