| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-05  (Oral presentation)

気候変動が表層崩壊後の森林回復に与える影響のシミュレーション予測
Simulating the effects of climate change on forest recovery after shallow landslides

*堀田亘(北海道大学, 国立環境研究所), 森本淳子(北海道大学), 芳賀智宏(大阪大学), 中村太士(北海道大学)
*Wataru HOTTA(Hokkaido University, NIES), Junko MORIMOTO(Hokkaido University), Chihiro HAGA(Osaka University), Futoshi NAKAMURA(Hokkaido University)

斜面崩壊は、日本をはじめとした地形が急峻な地域の森林における主要な自然撹乱である。気候変動に伴う集中豪雨の増加により、斜面崩壊の頻度・規模の増大が懸念されているため、気候変動下における斜面崩壊後の森林回復プロセスの予測・理解が必要である。特に、崩壊後の森林回復が気候変動に対して脆弱となる斜面の特徴を解明できれば、崩壊後の効果的な森林再生計画の立案に貢献できる。本研究では、森林景観モデルLANDIS-IIを斜面崩壊後の森林回復を再現できるよう改良した上で、2018年に多数の斜面崩壊が発生した北海道厚真町の森林域を対象に、2019-2100年の森林動態を予測した。現在気候に加えて、気温や降水量の変化パターンが異なる複数の将来気候シナリオでシミュレーションを行なった。撹乱レガシー(崩壊斜面上に島状に残った植生)が乏しい斜面では、地上部バイオマス量の回復に対する新規定着コホートの寄与が大きく、平均斜度が小さいほど地上部バイオマス量が大きくなった。しかし、将来気候下では現在気候下に比べて、寒冷な環境を好む樹種の新規定着コホートの地上部バイオマス量が大きく減少した。この樹種構成の変化に伴い、将来気候下で地上部バイオマス量が減少した。撹乱レガシーが豊富な斜面では、地上部バイオマス量の回復に対する残存植生の成長の寄与が大きかった。降水量の多い将来気候シナリオでは現在気候下に比べて、温暖化の影響で地上部バイオマス量がやや増加したが、降水量が少ないシナリオでは乾燥化による成長制限によって地上部バイオマス量がやや減少した。本成果から、気候変動下では、撹乱レガシーが豊富な崩壊斜面においては自然回復に委ねることで、迅速な自然林回復を実現できる可能性が示唆された。また、撹乱レガシーが少ない崩壊地では、自然回復に委ねることで将来気候に適応した樹種構成の森林が形成される一方、地上部バイオマスの回復は遅くなることが示唆された。


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