| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-11 (Oral presentation)
河川敷の樹林化は,河道断面積の縮小による流下能力の低下や流木生産の増加など,治水上のリスクを増加させることから,近年の水害の頻発を背景に河川管理の優先的な課題となっている.西南日本では竹林が河川敷の樹林の大きな割合を占めているが,近年は関東地方においても河川敷での急速な竹林の拡大が観察される.本研究では,竹林の拡大期にある多摩川において,竹林の分布の現状を把握するとともに,樹林化進行以前からの植生分布との比較から,竹林の拡大速度や拡大プロセスを解明することを目的とした.
河口から32 -53 kmの区間を対象とし,1977年,1989年,1995年,2008年,2024年の現存植生図と空中写真を用いて,河川敷に成立した竹林の分布と面積を調査した.現在の多摩川では,マダケ,ホテイチクなど3属6種を優占種とする竹林が分布しており,総面積は49.4 haであった.1977年には竹林はごくわずかであったが,1980年代の樹林化の進行に続いて竹林の拡大が始まり,1995年から2008年に約1.6倍,2008年から2024年に2.8倍と急速な面積の増加がみられた.年間拡大率にすると,1995年までは1.00から1.02であったのが,1995-2008年では1.18,2008-2024年では1.24と急上昇していた.これは都市近郊の里山の放棄竹林で見積もられた平均的な拡大率よりも大きかった.2024年に竹林となっている範囲の大半は,約30年前の1995年にはオギ群集やハリエンジュを主とする樹林であった.以上より,タケ類は細粒土砂が堆積した場所に先行して成立した群落に地下茎によって侵入し,既存群落の優占種を駆逐し拡大したといえる.現在も既存の樹林面積の約15%には下層にタケ類の侵入がみられ,樹林の更新を妨げており,このまま竹林を放置すれば,高水敷全体が竹林で覆われる可能性があると考えられた.