| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-13 (Oral presentation)
気候変動の緩和策として、バイオ炭(生物資源の炭化物)を用いた炭素隔離が注目されている。近年問題となっている管理放棄林には多くの枯死倒木 (CWD: Coarse Woody Debris)が存在していることから、CWD 由来のバイオ炭を作出し、森林に散布する事業を考えた。この事業の有効性評価のためには、各工程で生じる炭素排出を考慮した炭素隔離量を明らかにする必要がある。そこで本研究では、製品等の「生涯」の全工程における環境影響を評価する手法であるLCA(Life Cycle Assessment)を導入し、炭素排出・炭素隔離を包括的に定量化することを目的とした。
本研究では、日本の里山でよく見られるコナラ林を対象として「集材・運搬・前処理・炭化・再運搬・散布・生態系応答」の7工程を経ることを想定し、CWDが概ね分解される期間である100年間をLCAの範囲に設定した。各工程に複数の選択肢を設け、それらを繋ぎ合わせた様々なシナリオについて、一連のプロセス全体での炭素収支を評価した。「炭化」については、実際に2種類の炭化炉(閉鎖型炭化炉・開放型炭化炉)を用いて炭化率などのデータを収集した。また、「生態系応答」についてもバイオ炭を散布した森林において野外調査を行い、純生態系生産量の変化に関するデータを収集した。それ以外の工程については文献値等を用いた。
LCAの結果、CWDを林床に放置する場合と比べて炭化を行うことで炭素隔離効果が得られ、その効果は閉鎖型炭化炉の方が大きかった。炭素隔離に最も寄与した要因はバイオ炭自体の難分解性であり(全体の96%)、生態系応答の寄与は小さかった。また、炭素排出の多くは炭化時のものであり(全体の81-92%)、化石燃料由来の排出は小さかった。これらのことから、化石燃料由来の排出を加味してもCWDからバイオ炭を作出して森林へ散布した方が炭素隔離効果が大きくなることが明らかとなった。今後の社会実装の際、炭素収支のみならず費用面・労力面からの検討も進める必要がある。