| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-14 (Oral presentation)
農業景観のような人為的に改変された景観において、二次林や植林地といった二次的自然環境は生物多様性を保全する上で重要な環境である。特に、21世紀以降再び伐採されるようになった植林地では、一時的な草原環境が部分的に形成されるため、森林性だけでなく草原性の生物を保全する場にもなり得ることが近年認識されつつある。北海道の農業景観に多く植林されている防風保安林(以下、防風林)では、古い防風林を伐採して新たな苗木を植える更新作業が行われているが、植林後何年まで草原性生物の生息環境として機能するかよく分かっていない。そこで、本研究では、北海道十勝地域において植林後2~12年の若い植林地8サイト(樹種は全てカラマツ)に30×3 mのトランセクトを各1本設置し、開花中の虫媒植物とチョウを5月と8月に1回ずつ調査した。また、環境条件として、カラマツの樹高、開空度、草丈(5月と8月)、土壌湿度を計測した。
林齢の増加とともにカラマツ樹高は増加し、開空度は低下したが、草丈および土壌湿度と林齢の有意な相関はなかった。植物種数、チョウの資源となる花の量、チョウの種数・個体数は林齢の増加とともに減少し、特に植林後6年から9年の間に著しく低下した。このような植物とチョウの変化が上述の4つの環境要因で説明できるか解析したところ、ほとんどのケースで林齢と関係の強いカラマツ樹高か開空度との相関がみられた。また、林齢モデルと環境変数モデルのどちらが植物やチョウの種数・個体数をうまく予測するかAICを比較したところ、林齢モデルが選ばれることの方が多かった。これらの結果は、植物やチョウの生息環境となるのはカラマツの植林後2~6年であること、環境変数を計測しなくても林齢のみで植物やチョウの挙動をかなり予測できることを示している。これらの知見は生物多様性を考慮した防風林管理手法の構築に貢献するであろう。