| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-17 (Oral presentation)
霞ヶ浦流域の台地には畑地が多く、長年にわたる施肥によって余剰な窒素が地下水に蓄積している。その結果、低地部の谷津奥には、硝酸態窒素濃度の高い地下水が湧き出ている。谷津奥の水田やため池は放棄され荒地になっていることもあるが、遷移の進行によっては湿地(以下、谷津奥湿地)となっている。谷津奥湿地は自然湿地と同様に水質浄化機能を有し、希少生物の生息場所となる可能性があるため、Nature-based Solutions(NbS)としての活用が期待される。
本研究では、小野川・清明川流域の谷津奥湿地61箇所を調査し、水質浄化機能(硝酸態窒素濃度)、貯水機能(滞留時間)、メタン抑制機能(溶存メタン濃度)、イトトンボ類の多様性、在来魚の多様性、外来魚の侵入のしやすさ(外来魚の種数)を評価した。これら6つの指標間の関係を主成分分析によって明らかにし、湿地の特徴(水の流れ方・溶存酸素濃度・優占植生)と主成分の関係を分析した。
結果、3つの主成分が特定され、第1主成分では、水質浄化機能、貯水機能、イトトンボ類の多様性のシナジー効果が抽出された。このシナジー効果は、水の流れ方によって大きく異なり、コンクリート水路<偏り湿地(掘れた土水路から水が素早く流出する湿地)<均一湿地(水が湿地全体を流れる)<ため池、の順に高くなった。しかし、シナジー効果が大きくなると、外来魚の侵入が増加するトレードオフも認められた。第2主成分では、メタン抑制機能のみが抽出され、溶存酸素濃度と正の相関が見られた。第3主成分では、魚類の多様性のみが抽出され、多様な植生を持つ湿地では在来魚の多様性が高かった。本研究から、水の流れ方・溜め方の改善、外来魚の侵入防止・駆除、酸素環境の改善、多様な植生の維持等の小さな介入によって、谷津奥湿地の多機能性を高められる可能性が示唆された。