| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-18  (Oral presentation)

農業害虫ハダニ類の集団遺伝構造と環境要因との関係
Population genetic structure of agricultural pest spider mites and its relationship to environmental factors

*駒形泰之(宮城農園研, 東北大学), 大江高穂(宮城農園研), 関根崇行(宮城農園研), 田口裕哉(東北大学), 陶山佳久(東北大学)
*Yasuyuki KOMAGATA(MPAHRC, Tohoku Univ.), Takaho OE(MPAHRC), Takayuki SEKINE(MPAHRC), Hiroya TAGUCHI(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.)

ナミハダニ(Tetranychus urticae)は最重要農業害虫の一つであり、殺虫剤に対する感受性が低下しやすい。また、初めに定着した寄生部位に留まり産雄性単為生殖を繰り返す一方で、高密度化した場合には風を利用する分散様式をとることが知られており、数km程度離れた農地間における遺伝子流動の検出事例が存在する。それでは、ナミハダニの薬剤感受性の傾向は異なる園地の個体群の影響を受けるのだろうか。このような薬剤感受性傾向とナミハダニの広域分散の関連性を解析した事例は限られている一方で、こうした知見はナミハダニの効率的な薬剤防除スケールの推定に必要である。
 本研究で我々は、複数の殺ダニ剤におけるナミハダニの薬剤感受性傾向に対して周囲の農地からの遺伝子流動の影響は検出されず、むしろその園地における薬剤使用履歴の影響を受けることを見出した。また、ナミハダニ個体群は概して園地ごとに異なる遺伝的組成を持っていることも検出した。
 2024年8月に宮城県内の12地点の農地(リンゴ、ナシまたはイチゴ)より採取したナミハダニ個体群を対象に殺ダニ剤9剤に対する感受性検定と、MIG-seq法を用いた遺伝的集団構造解析を実施した。感受性検定の結果、概して殺虫効果の高い薬剤は共通していたものの、個体群によって若干の差異が認められた。また、集団遺伝学的解析の結果、ナミハダニ個体群は各園地間で異なる遺伝的組成を持つことが示され、一部で遺伝子流動が検出された。この遺伝子流動の推定値と流入元となる個体群における死虫率の積和、各園地における殺ダニ剤使用回数および遺伝的多様度指数の感受性検定結果に対する影響をGLMMにより解析したところ、いずれの殺ダニ剤に関しても遺伝子流動の効果は検出されず、薬剤散布履歴の影響が一部の剤について検出された。以上のことから、ナミハダニ防除にあたってはあくまで農地ごとの薬剤選択が重要であり、周囲の農地からの個体群流入の影響は小さい可能性が推察された。


日本生態学会