| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) C02-19 (Oral presentation)
動物プランクトンのカイアシ類は、マイワシ、カタクチイワシのような海洋の主要な浮魚類の餌資源であり、カイアシ類の生産量がこれら浮魚類の加入量に大きく貢献することが指摘されている。浮魚類の動向を理解するためには、カイアシ類の情報が不可欠であるが、植物プランクトンと比べて知見は乏しく、魚類資源の動態解明の大きな障壁となっている。これまで著者らは、堆積試料に残る環境DNA(堆積物DNA)を用いて、カイアシ類の長期復元を実現するためのモニタリング技術の開発を行ってきた。先行研究の湖沼では、琵琶湖のカイアシ類を対象に、リアルタイムPCR(qPCR)を用いて過去100年にわたる本種の堆積物DNA濃度変化を明らかにし、DNA濃度が本種の生産量や現存量と有意な相関関係が得られることを突き止めた。この結果は、堆積物DNA濃度が当時の現存量を反映していることを示唆するもので、堆積試料のDNA解析からカイアシ類の現存量変化を捉えられる可能性を示した。
本研究では、さらに海産浮遊性カイアシ類復元の有効性を検証することを目的とし、瀬戸内海で優占するCalanus sinicusとParacalanus parvusを対象に、開発した各種のプライマー・プローブを用いて、年代が判明している別府湾堆積物に残るこれらのDNA濃度を定量した。その結果、DNA濃度が時代により変化し、中でも1990年頃から2000年代半ばにかけて急速に増加していたが、その後、大幅に減少していることを見出した。2000年代のDNA濃度の減少は、現場観測からも現存量の低下が指摘されている時期で観測結果と整合的であった。発表では、これらの解析結果と先行研究で報告されている日本海沿岸のカイアシ類の観測結果を踏まえて、幅広いスケールでのカイアシ類の長期傾向とその変動要因についての考察を紹介する。