| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-02 (Oral presentation)
都市域の森林では、かつて薪炭・農用林として利用されてきた雑木林が多くみられる。これら雑木林では2020年から東日本でまん延したブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)により、優占種のコナラ・クヌギに大量の枯死木が発生し、危険防止のため多くの枯死木が伐採された。また、雑木林は旧来の伝統的な利用がなくなり多くが放置されているが、近年一部の林分では皆伐更新を再開している。このように都市域の雑木林において、様々な形で林冠木の伐採が行われている。しかし市街地に囲まれ孤立化した都市林においては、林冠木伐採後の植物種構成の変化が周辺が市街化される以前とは異なる可能性が考えられた。
そこで市街地の雑木林で市民管理により保全されている東京都武蔵野市の境山野緑地において、ナラ枯れによる枯死木を2021年に抜き伐りした壮齢の林分と2005年に植栽され2019年に皆伐更新を行った幼齢の林分において、伐採前後を含んだ15~17年間の継続調査データにより植物種構成の変化を分析した。
その結果、林冠層のナラ枯れ枯死木の抜き伐りを行った林分では、下層の状態は伐採前と変化がなく、出現種数や種構成の変化は軽微または一時的であった。皆伐更新を行った林分では、林冠層だけでなく全層伐ったために一時的に明るい状態となり、人里の種や外来種が増加した。しかし伐採後の林分再生が早く、種数の増加は短期間でピークを打ち数年で伐採前の種数や種構成に近づいた。
このように、適切に保全管理され下層が安定している林分では、林冠木伐採による種構成へのネガティブな影響は少ないと考えられる。しかし林冠木の抜き伐りの場合は、林冠が疎になるなど林分構造がいびつ化した林分をどのように再生していくかについて、今後の課題として検討する必要がある。