| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-03  (Oral presentation)

来訪者の踏み入れが奥入瀬渓流の植生に与える影響について
Effects of trampling by tourists on vegetation in the Oirase Stream.

*山岸洋貴, 小黒陽太郎(弘前大学)
*Hiroki YAMAGISHI, Yotaro OGURO(Hirosaki Univ.)

我が国には豊かな自然環境を観光資源として利用する観光地が非常に多く存在する。近年、多くの場所では海外からの観光客の利用が急増しており、しばしば利用許容量を超過するオーバーユースが問題となっている。観光立国を目指す我が国にとって、重要な資源である自然環境は持続的に維持する必要がある。このようなことからも私たちはこの問題に対して早急かつ効果的に対策を講じなければならない。
 奥入瀬渓流は青森県南部に位置し、十和田湖を水源とする全長おおよそ14㎞にわたる美しい渓流である。ここは、文化庁が管轄する特別名勝及び天然記念物であるとともに十和田八幡平国立公園の特別保護地区(環境省)でもあり、2つの省庁による保全に関する法令の網がかかっている。近年、奥入瀬渓流では観光客が増加し、散策路からの逸脱等による踏み荒らしが目立つようになった。これらに対して通常では柵などの人工物を設置するなど、一般的かつ即効性のある対策も選択肢となるが、奥入瀬渓流では各法令や景観上の理由から構造物の設置へのハードルが高い。このため、現状変更を極力伴わずに踏み荒らしなどの問題を解決する必要がある。そのためには未だ全容が明らかではない踏み荒らしの状況把握、また自然環境への影響を詳しく理解する必要がある。
本研究では、踏み荒らしの現状を把握し、さらに踏み荒らしによる土壌硬化と植生への影響を明らかにすることを研究目的とした。状況の把握は下層植生の状態が可視化しやすい6月と観光客で賑わう10月、子ノ口から焼山までの約14キロの散策路と車道を合計3往復踏査し記録することで行った。また土壌硬度と植生はランダムに設置した約200プロット内でそれぞれ計測、記録し解析に用いた。調査の結果、踏み荒らしによると思われる裸地化した場所は合計約350件確認され、人がよく訪れる景勝ポイントでは特に土壌の硬化がみられ、植生変化の傾向も確認された。


日本生態学会