| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-04  (Oral presentation)

倒流木の形態による有機物滞留の違いが河畔生態系の生物多様性に及ぼす影響
Effects of coarse woody debris with morphological complexity on organic matter retention and the riparian biodiversity

*本田真奈, 南佳典(玉川大学)
*Mana HONDA, Yoshinori MINAMI(Tamagawa Univ.)

 倒流木は河川生態系において水生生物に生息場所を提供する重要な大型有機物である.通常,自然倒流木には多様な形状が存在するが,形態的差異による機能の違いは明らかにされていない.そこで本研究では,釧路川源流域の小河川において,枝無し倒流木(以下枝無しと呼称)と枝付き倒流木(以下枝付きと呼称)周辺の物理的環境および落葉滞留量を比較し,それにより底生動物相に違いが生じるかどうかを検証した.
 枝付きは瀬に近い環境であったが河床に有機物を多く滞留させた.摂食機能群を用いた底生動物相比較を行ったところ,設置から3か月後の秋には枝付き倒流木で特に下流側の測定点において採集食者の増加が見られた.また,破砕食者は枝無しではキタヨコエビ科,オナシカワゲラ科,枝付きではカクツツトビケラ科,コエグリトビケラ科が優占し,組成が異なった.出水期にあたる春では,ユスリカ科の量は枝付きで目立って少なかったが,その他の組成は大きく異なり,枝無しではコエグリトビケラ科やハエ目,枝付きではヒメフタオカゲロウ科,アミメカワゲラ科が優占した.翌年の秋では,総個体数はどちらも増加したものの枝無しの方がデトリタス食者の個体数が多かった.生物相では,枝無しではトビケラ科,枝付きではアミメカワゲラ科,カクツツトビケラ科,ヒメドロムシ科など落葉を掴むことのできる底生動物が多かった.
 デトリタス食者の個体数に関して,捕食者となる底生動物の増加や河床有機物の被覆率を考えると枝付きにおける個体数減少は考えにくく,枝に直接捕捉されて積みあがった落葉への分布拡大の可能性がある.魚類による捕食圧と水生動物個体数のバランスを保つ点で,底質に底生動物を増やす枝無しと,倒流木の枝と捕捉された落葉自体に底生動物を溜める枝付きの両方が混在する環境が重要である.今後は,倒流木とそれが作り出す環境が高次の生物にどのように利用されるかも含め検証していきたい.


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