| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-05 (Oral presentation)
伝統的な里山景観では、二次林、草原、水田、畑地などの不均一な環境がモザイク状に組み合わさり、多様な生物分類群に適した生息地を形成している。この景観は、人為的攪乱により高い生物多様性が維持されてきたが、近年、農業人口の減少や土地管理の放棄により、生物多様性の低下や群集組成の変化が進行している。奈良ばい谷戸では、伝統的農業形態の復元と保全を目的に、地域住民団体が主体となり里山整備が進められている。この地域では、稲作や薪炭生産に関連付けて定期的に草刈りが行われている場所、年1回程度の草刈りが行われている場所、ほとんど管理が行われていない場所の3つに分類される。本研究では、草刈り頻度の異なる地点で植物多様性の比較を行うことで、伝統的里山管理に関連付けされた草刈りが植物多様性に与える影響を評価することを目的とした。
奈良ばい谷戸の53地点で1m2の植生調査区を設置し、生息する維管束植物種数、アバンダンス、草刈り頻度、斜面方位、斜面角度を測定した。α多様性に対する各要因の効果、及び草刈り頻度と生育環境との交互作用を一般化線形モデルで検定した。β多様性と草刈り頻度の差との相関をマンテル検定で評価した。また、群集組成と草刈り頻度・生育環境との関連を非計量多次元尺度法による多変量解析で評価した。
全体では220種観察され、アズマネザサ、ドクダミ、オニドコロ、及びセイタカアワダチソウが優占していた。草刈り頻度はα多様性に正の影響を与えていたが、その効果は環境により異なった。草刈り頻度の差とβ多様性には正の相関があることが分かった。群集組成は生育環境で類似し、草刈り頻度と群集組成に関連が有ることが示された。
伝統的里山管理による草刈りでは、場所ごとに草刈りの時期や回数が異なる。このような各環境の定期的な草刈りによる攪乱が、時空間的な環境の異質性を生み出し、植物多様性の保全に寄与する事が示唆された。