| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-07  (Oral presentation)

樹液性昆虫の賑わいを決めるスケール依存的要因:地域・局所・単木
Scale-dependent factors determining saprophytic insects: regional, local, and single tree scale

*宮下直(東京大学), 永野裕大(東京大学), 出戸秀典(東京大学), 濱野友(兵庫県立大学), 榊原正宗(兵庫県立大学), 中濱直之(兵庫県立大学)
*Tadashi MIYASHITA(The University of Tokyo), Yuta NAGANO(The University of Tokyo), Hidenori DETO(The University of Tokyo), Tomo HAMANO(University of Hyogo), Masamune SAKAKIBARA(University of Hyogo), Naoyuki NAKAHAMA(University of Hyogo)

生物多様性の第2の危機として知られるアンダーユースの問題は年々深刻さを増している。とくに草原性の昆虫や植物の衰退や増えすぎた野生動物による生物多様性への脅威については研究が進み、広く知られている。一方、森林のアンダーユースの影響については、エビデンスはいまだ限定的である。本講演では、日本の虫取り文化の要ともいえる樹液性昆虫の衰退が、雑木林のアンダーユースと深くかかわっていることを発表する。
高桑(2007)は、クヌギやコナラの樹液を滲出させる主要因は、シロスジカミキリの産卵孔であるが、管理放棄に伴う幹直径の増大と樹皮の肥厚により、産卵可能な木が減り、樹液性昆虫の衰退をもたらしたという説を提唱した。だが、限られた林分における単木レベルでの分析にとどまっており、普遍性や状況依存性については未解明であった。我々のプロジェクトでは、種プールが異なる地域―林分―単木という3つの空間階層において、樹液を滲出させる要因と、昆虫群集の応答を調べ、樹液性昆虫の衰退メカニズムの全貌を解明することを目指している。
調査は、栃木県中部、長野県南部、石川県中部、兵庫県南部の4地域を対象に、それぞれで樹齢などが異なる7~10林分を対象に行った。途中経過として、以下の点が明らかになっている。1)樹液滲出の原因は、栃木、長野、石川ではおもにシロスジカミキリであるが、兵庫ではその頻度が非常に低く、ボクトウガの重要性が増している、2)シロスジカミキリの産卵孔の有無は、単木レベルでも林分レベルでも、胸高直径に対して一山型を示し、30cm以上ではほぼ皆無である、3)ボクトウガについては胸高直径との明確な関係はない、4)林分レベルのシロスジカミキリの産卵孔の数と昆虫の数(特に蝶やクワガタ・カブトムシの数)には強い相関がある。講演では、さらなる解析結果も併せて報告し、今後詰めるべき課題などについて議論する。


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