| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-08 (Oral presentation)
繁殖地と越冬地間の移動である「渡り」は鳥類の特徴的な生態の一つであり、多くの鳥類は捕食圧が低く、大気の安定した夜間に渡りを行う。近年、夜間の渡り鳥が地上の人工光によって方向感覚を喪失し、光源の周囲を旋回する等の改変行動を示す場合があることが分かってきた。人工光による行動改変がどのような種で、またどのような条件下で起こりやすいのかを理解することは、柔軟な保全策の実施に寄与するほか渡り鳥のナビゲーション機構の解明にも示唆を与える可能性がある。しかし、人工光の有無と渡り鳥の行動改変の頻度の関係を調べた研究は限られており、行動改変の頻度が種の違いや行動特性、気象等の環境条件によってどのような影響を受けるのかについても明らかになっていない。そこで、2021年〜2024年4〜5月および8〜11月に北海道と青森県の地上照明がある場所とない場所の合計14地点において夜間の渡り鳥の飛翔行動を観察した。各地点では、赤外線サーマルスコープを用いて改変行動の指標(旋回・降下など)の有無を個体ごとに記録し、4年間で計16,932回の観察記録を得た。行動改変の頻度が地上照明の有無や環境変数の影響を受けているかについて、空間一般化線形混合モデルを用いて解析したところ、行動改変の頻度は照明がない場所よりもある場所で有意に高く、地上照明がある場所では月が暗いほど、そして雲量が多いほど高いことが明らかになった。このことは、人工光による影響が夜空全体の明るさとの関係によって変動することを示唆している。さらに、種ごとの解析から行動改変の頻度には大きな種間差が存在し、系統的な制約があることも明らかになった。本発表では、人工光の影響を増強もしくは軽減する要因について、鳥類の形態的もしくは行動的側面からより深く議論する。