| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-09  (Oral presentation)

繁殖期と渡り期において交通騒音が鳥類群集に及ぼす影響:操作実験による検証
The effect of traffic noise on bird communities during breeding and migratory seasons: an experimental study

*鈴木龍晟(筑波大学), 庄子晶子(名古屋大学)
*Ryusei SUZUKI(University of Tsukuba), Akiko SHOJI(Nagoya University)

 交通騒音は人間活動に伴って増加しており、生物多様性を減少させる要因とされている。特に鳥類はさえずりによる求愛など鳴き声での情報伝達が重要であるため交通騒音に脆弱であり、個体数の減少などが懸念されている。さらに、生活史段階が異なると、音声による情報伝達の必要性も変化する可能性があるが、季節間の交通騒音に対する応答の違いは未知である。そこで本研究では、繁殖期と渡り期における交通騒音が鳥類群集に及ぼす影響の解明を目的に、森林内で交通騒音を人為的に導入する操作実験を行った。
 長野県上田市の筑波大学菅平高原実験所の実験林で、2023年の繁殖期と渡り期、および2024年繁殖期に計117日間野外調査を行い、操作実験を繰り返し実施した。1回の操作実験は計8日間設定し、最初の4日間は騒音を再生せず、後半の4日間はスピーカーで騒音を導入した。操作実験の期間中は鳥類調査を行い、出現種や個体数を記録した。騒音の強弱による影響の違いを調べるためにスピーカーから20 mまたは100 mの距離に調査地点を設け、2024年は音源を再生した際に音が届かない地点に対照区を設けた。
 交通騒音を導入した結果、繁殖期は繁殖初期で鳥類の個体数が減少した。一方、対照区では同様の傾向を示さなかったことから、交通騒音が鳥類の個体数減少の要因であることが示された。また、渡り期においては交通騒音を導入しても個体数が変化しなかったことから、森林性鳥類は繁殖初期に最も交通騒音の影響を受けたと考えられる。よって、交通騒音は繁殖期において求愛などの情報伝達を妨げた可能性がある。さらに、騒音から20 mと100 mの地点の両方で鳥類が減少したことから、小さい交通騒音でも鳥類の個体数に影響を及ぼすことが示された。本研究では森林性鳥類の生活史段階によって交通騒音の影響が変化する可能性を示し、鳥類の生息地管理や騒音緩和策の策定に重要な知見が得られた。


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