| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-10  (Oral presentation)

都道府県版レッドリストを活用した指標による国内の生物多様性評価
An examination of national biodiversity assessment using Red List Indices based on prefectural Red Lists

*中西康介(国立環境研究所), 山野博哉(東京大学, 国立環境研究所)
*Kosuke NAKANISHI(NIES), Hiroya YAMANO(Univ. of Tokyo, NIES)

 現在の生物多様性国家戦略では、2030年までに生物多様性の損失を食い止め、回復に転じさせる「ネイチャーポジティブ」の実現が目標とされている。しかし、国内の生物多様性を包括的に評価するための指標は十分に整備されていない。そこで本研究では、都道府県版レッドリスト(以下、RL)の昆虫と維管束植物のデータを用いた生物多様性指標の開発を検討した。
 全国47都道府県において作成・公表されている最新版RLを収集し、環境省RLに準拠してカテゴリを統一した上で、カテゴリごとの掲載種数を集計した。つぎに、RL掲載種全体に対する絶滅危惧種の割合を算出した。また、国際自然保護連合(IUCN)のRLをもとに開発されたレッドリストインデックス(RLI: Butchart et al., 2007)を日本のカテゴリに合わせて改変した指標を、都道府県ごとに算出した。
 その結果、都道府県ごとの両指標の値の頻度分布は正規分布に近い形を示し、環境省RLから同様に算出した指標は、いずれも平均値に非常に近い値となった。さらに、各都道府県の環境条件とこれらの指標値との関係を重回帰モデルで分析した結果、人口密度や土地利用との間に有意な相関がみられた。具体的には、人口密度や畑地割合が高い地域では絶滅リスクが増大し、水田割合が高い地域では絶滅リスクが低下する傾向が確認された。本研究で開発した指標は、国内の生物多様性を包括的に評価する上で有用であると考えられる。今後、様々な社会経済的要因(間接要因)を考慮したシナリオを用いた生物多様性の将来予測研究への応用が期待される。


日本生態学会