| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) D03-02 (Oral presentation)
水田はカエル類の繁殖場所や幼生の成育場所として重要だが、湛水期間が繁殖時期とある程度一致していなければ、水田での個体群存続が危ぶまれる可能性がある。本研究では、湛水期間が水田間で大きく異なる埼玉県北部・東部において、天候の影響を受けない合成開口レーダ(SAR)で撮影された画像から湛水開始時期を推定し、カエル類の分布との関係解明を試みた。
SAR搭載衛星のSentinel 1(回帰日数 12 日、解像度 10m、VH偏波を使用)を利用し、埼玉県北部・東部における水田の湛水開始時期を推定した。湛水直後の水田では後方散乱係数が顕著に低下するため、湛水開始の指標に用いることができる。光学衛星画像を用いた評価では高い正答率(85.1%、閾値-23.1dBで推定)が得られた。推定した湛水開始時期を基に水田を4カテゴリ(4月~5月上旬、5月中下旬、6月上中旬、6月下旬以降)に分類したところ、湛水が早い水田は東側、遅い水田は西側に分布する傾向が認められた。
2024年5~6月の夜間に上記の対象地域内の121 地点において、カエル類の鳴き声を3分間聴き、種ごとの在/不在を記録した。対象地域内の3種類のメッシュ(250m、500m、750m)に上記のとおり推定した湛水開始時期で分類した各カテゴリの水田面積、市街地や森林といった土地利用面積を格納し、カエル類の分布データとともにMaxEntにて生息適地モデルを構築した。
ニホンアマガエルと国内移入種のヌマガエルは対象地域内のほぼ全域で確認され、Maxentによる推定でも広い範囲の水田地帯で生息適地と判定された。一方、トウキョウダルマガエルの生息適地は湛水開始の早い東側で多い傾向にあり、西側の湛水開始の遅い二毛作地帯では生息適地が少ない傾向であった。湛水開始が6月下旬以降の水田は、本種の繁殖に適していない可能性が考えられる。