| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-03  (Oral presentation)

炭素・窒素安定同位体比から見るオオサンショウウオ幼生と渓畔林の関係性
Relationship between juvenile Japanese giant salamander, Andrias japonicus, and riparian forest based on carbon and nitrogen stable isotope ratios

*苅部甚一(近畿大学), 髙田涼(近畿大学・院), 清水則雄(広島大学総合博物館)
*Zin'ichi KARUBE(Kindai Univ.), Ryo TAKATA(Graduate School, Kindai Univ.), Norio SHIMIZU(Hiroshima University Museum)

 日本の固有種,天然記念物であるオオサンショウウオ(Andrias japonicus)が生息する広島県東広島市の河川では,本種の生態調査が長年実施されている.その中で,本種幼生は繁殖巣穴での孵化後に河床に堆積した落葉などを住処としながら徐々に下流に離散していくこと,餌は主に大型無脊椎動物であることが明らかになってきた.これは本種の幼生期に河川近傍の陸上植物も重要な役割を果たしていることを示唆する.そこで本研究では,炭素と窒素安定同位体比から本種幼生と河川近傍の陸上植物の繋がりを明らかにすることを試みた.
 調査は2023年3~4月に本種が生息する広島県東広島市の河川渓流域で実施した.調査地点は本種の巣穴近傍の地点1と繁殖巣穴近傍の地点2とし,両地点で大型無脊椎動物を採取した.同時に幼生個体も捕獲して室内飼育し,捕獲から約1週間の糞を採取した.これらに対して炭素,窒素安定同位体比分析を実施した.
 4月の結果では,地点1は付着藻類を含む礫付着物と河床の落葉のδ13Cがそれぞれ-27‰と-31‰,δ15Nは3‰と0‰となった.カワニナやヘビトンボ科幼虫等の大型無脊椎動物のδ13Cは-25~-29‰であり,δ15Nが5~7‰となった.地点2は礫付着物と落葉のδ13Cがそれぞれ-32‰と-30‰,δ15Nは1‰と-2‰となった.大型無脊椎動物全体ではδ13Cは-23~-31‰,δ15Nは0~5‰となった.詳しく見ると,ガガンボ科とヒラタカゲロウ科のδ13Cは-28‰と-31‰だったがδ15Nは0‰と4‰の違いがあり,この要因として餌となる礫付着物と落葉のδ15Nの違いがあるかもしれない.これらの結果から,大型無脊椎動物を支える餌として陸上植物も重要であることが示唆される.本種幼生の糞のδ13Cは-27‰,δ15Nは5‰となり,幼生は大型無脊椎動物の捕食者と同じ栄養段階であると推測できた.以上のことは,本種幼生の生息域の渓畔林は,落葉が大型無脊椎動物群集の餌資源となることで本種幼生を間接的に支えていることを示唆している.


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