| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-04  (Oral presentation)

ため池に生息する水生昆虫に自然災害が及ぼす影響とその保全
The impacts of natural disasters on aquatic insects inhabiting reservoirs and their conservation.

*西原昇吾(中央大学理工学部)
*Shougo NISHIHARA(Chuo University)

自然災害は、限定された時間的空間的スケールにおいて急速に発生し、生息地が劇的かつ急激に変化するため、動植物に直接的・間接的な深刻な影響を与える可能性がある。とくに淡水域の水生生物は気候変動に伴う干ばつや豪雨災害に脆弱であるため、環境変化や群集組成の変化、絶滅危惧種への影響が懸念される。また、地震による亀裂や地下の帯水層の破壊による水位低下も大きな影響を及ぼす。石川県能登半島は世界農業遺産に指定され、農業用ため池では伝統的な水抜きなどの維持管理がなされてきた。そこには多くの水生昆虫が生息するが、2020年に施行された「ため池工事特措法」により、池の改廃が進行した。そうした中、2024年1月の能登半島地震、9月の奥能登豪雨災害は甚大な被害をもたらした。これらの生態系への影響を把握するために、モニタリングを継続してきた能登の38ヶ所のため池で2024年の各季節に調査を実施した。中山間部の3ヶ所は立ち入り不可能であった。地震後には18のため池で堤のひび割れ、堤体の池内への崩落、池脇の林の土砂崩れが生じた。その結果、池の水位を下げ堤への負荷を軽減する低水管理が行われたが、マルコガタノゲンゴロウは低下した水位でも幼虫が生息していた。ため池の復旧は遅れ、ブルーシートで堤を覆われていたが、豪雨後に堤が崩壊した池や、水を抜いた池も4ヶ所存在した。シャープゲンゴロウモドキの生息する小規模な池では、災害の影響はこれらの池ほど大きくなかった。また、防災重点ため池工事の際に50㎝~1mの水深が維持された池のうち、豪雨により水が抜けた池では水生昆虫がほぼ確認されなかった。一方、水深が維持された池では、決壊による下部集落への被害が生じず、様々な水生昆虫とともにゲンゴロウも確認された。今後のため池の水生昆虫の保全には、モニタリングの継続とともに、水深を保ちながらも堤に負担のかからない池の管理や、水を抜きやすい水門部への改修が重要である。


日本生態学会