| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D03-06  (Oral presentation)

山椒は外来魚にもピリリと辛い ―水生昆虫に優しい新たな侵略的外来魚駆除法―
Japanese Prickly Ash also paralyze invasive alien fish - A new extermination method of invasive alien fish that is safe for aquatic insects

*苅部治紀(神奈川県立博物館), 富永篤(琉球大学), 冨坂峰人(日本工営株式会社), 石原宏二(日本工営株式会社), 金城嵐太(つどいカンパニー), 加賀玲子(神奈川県立博物館), 荒谷邦雄(九州大学)
*Haruki KARUBE(Kanagawa prefectural museum), Atsushi TOMINAGA(Ryukyu university), Mineto TOMISAKA(Nippon Koei), Koji ISHIHARA(Nippon Koei), Ranta KINJYO(Tsudoi Company), Reiko KAGA(Kanagawa prefectural museum), Kunio ARAYA(Kyusyu University)

演者らは、絶滅危惧水生昆虫保全のため外来種管理に長年取り組んできたが、今回は琉球列島の外来魚駆除技術開発の中で、山椒を使用した管理手法を構築できたので報告する。
琉球列島では、ティラピア類など外来魚による捕食圧で水生昆虫が影響を受けている。中でもカダヤシ、グッピーなどは個体数も膨大で小型ゆえの捕獲の困難さがあり、これまで根絶に成功した事例はなかった。外来種駆除手法としては、シロアゴガエル駆除に塩素剤を利用した駆除が実施されているが、塩素剤は多くの水生生物に致死的影響がある。そのため今回は選択効果が期待できる「植物由来の成分」を利用した駆除を検討した。*なお、水産物の捕獲のための毒物使用は水産資源保護法で禁止されているが、今回は適応外の私有地の池で試験を行った。
本研究のきっかけは、希少水生昆虫保全池に侵入し、捕獲では根絶困難なカダヤシの駆除手法を検討する中で、環境リスクの小さい素材を探索したことにある。候補素材の中で山椒は、予備的試験で「魚には効くが昆虫には影響がない」ことが明らかになった。そこで室内試験に移行し、魚類の他、無脊椎動物(水生昆虫各種、エビ類、淡水貝類)に対する影響を検証した。その結果、魚には即効性の致死効果があるが、無脊椎動物にはほとんど影響がないこと、時間の経過で効果も失われることが確認でき、安全性が確認できたため、野外試験に移行した。試験は八重山諸島の私有地の池で実施した。使用量抑制のため、ポンプで水位を極力低下させた後、山椒粉末を散布した。小規模な池での試験で得られた知見を活かし、規模の大きい池でも施工した。結果として、試験池のカダヤシ根絶に成功した。山椒は既存手法と比較して、選択効果が強く費用対効果も高いため、今後の外来魚駆除のゲームチェンジャーとなりうる理想的な物質になると期待される。一方、植物成分による駆除には様々な注意が必要なため注意点も紹介する。


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