| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) D04-04  (Oral presentation)

利根川水系の魚類から新たに発見された外来寄生虫の分布と生活史
Life cycle and distribution of a newly introduced fish parasite in the Tone River system, Japan.

*齊藤佳希(東邦大学), 岩田翔(東邦大学), 林蒔人(東邦大学), 新田理人(水産研究・教育機構), 石川孝典(日本大学), 萩原富司(一財 地人フ), 池澤広美(茨城県自然博物館), 間野伸宏(日本大学), 脇司(東邦大学)
*Yoshiki SAITO(Toho University), Sho IWATA(Toho University), Makito HAYASHI(Toho University), Masato NITTA(FRA), Takanori ISHIKAWA(Nihon University), Tomiji HAGIWARA(Global Environmental Forum), Hiromi IKEZAWA(Ibaraki Nature Museum), Nobuhiro MANO(Nihon University), Tsukasa WAKI(Toho University)

腹口吸虫は寄生性の扁形動物の一群で、魚類に寄生し、出血症状や異常遊泳を引き起こすことが知られている。かつて日本には淡水産の腹口吸虫は分布していなかったが、1999年以降、宇治川水系で中国原産のナマズ腹口吸虫と尾崎腹口吸虫が日本に初めて侵入した。さらに、2019年には利根川水系から尾崎腹口吸虫が見出された。発表者らは利根川水系において、日本で3種目となる腹口吸虫を見出し、その分布と生活史の詳細を明らかにした。
2021年から2023年に利根川水系の28地点を調査したところ、魚類38種1237個体が得られ、このうち8地点8種42個体から腹口吸虫とみられる橙色の成虫が見出された.これらのうち、本水系の在来種であるトウヨシノボリおよびヌマチチブならびに外来種のカラドンコ、スゴモロコ、タモロコ、ツチフキおよびブルーギルでは、鰭や筋肉に寄生が認められた(寄生率11~100%)。チャネルキャットフィッシュでは消化管から成虫が見出された。得られた成虫の形態を観察したところ、中国大陸部で淡水魚から記録のあるDollfustrema属の腹口吸虫の一種と同定された。
得られた成虫からDNAマーカーを得て本吸虫の幼虫を探したところ、調査地点のうち1地点で、本吸虫のスポロシスト幼虫に感染したカワヒバリガイ1個体が見つかった。さらに別の2地点でタモロコとブルーギルから本吸虫のメタセルカリア幼虫が鰭や筋肉から見出された。これらのことから、本吸虫はカワヒバリガイにスポロシスト幼虫が感染し、そこから遊出した幼虫が小型魚の体表から侵入しメタセルカリア幼虫になることが示された。多くの魚種ではメタセルカリア幼虫がそのまま成虫になるが、チャネルキャットフィッシュはそれらの宿主魚を捕食したことで成虫が消化管に寄生したものと考えられた。発表者らは、2019年から本水系で調査を実施してきたが、本吸虫は2021年以降でのみ得られたことから、本吸虫は2020年頃に導入され、急速に分布を拡大したことが示唆された。


日本生態学会