| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E01-01  (Oral presentation)

盗葉緑体現象の進化
Evolution of kleptoplasty

*内海邑(日本大学)
*Yu UCHIUMI(Nihon University)

盗葉緑体現象は、捕食した藻類の葉緑体を消化せずに維持し、一時的な光合成能を獲得する現象であり、繊毛虫や渦鞭毛藻、ウミウシなど、幅広い分類群で知られている。この盗葉緑体現象は、一時的ではありながら、外界から葉緑体を得て光合成するため、細胞内共生とともに、葉緑体獲得の途中段階として注目されてきた。しかし、葉緑体を残して消化するという、盗葉緑体のユニークな点に注目した理論研究はこれまでになく、盗葉緑体現象に至る進化過程は明らかでない。特に、もし宿主にとって、藻類を消化し瞬間的に大きな養分を得るよりも、藻類を維持して長期的に養分を引き出すことが有利であれば、可能な限り永続的に藻類を維持する細胞内共生系が進化し、その逆であれば捕食系にとどまるはずである。そのため、葉緑体を一時的にしか維持しない、中途半端な盗葉緑体系がどのような条件で進化するのかは、捕食系から共生系に至る、藻類と宿主の多様な関係を理解する上で解かれるべき問題である。そこで本研究では、捕食、盗葉緑体化、共生を宿主による消化の程度の違いとして表現した数理モデルを構築し、宿主による藻類の消化戦略の進化として、中途半端な盗葉緑体化の進化条件を導出した。特に、消化の程度に応じて、藻類の細胞外皮のみを消化すれば葉緑体から漏出する糖を直接得られる一方、葉緑体まで消化してしまうと糖を得られなくなると予想されることから、モデルでは、消化にともなう養分の漏出率と葉緑体(藻類)の生存率のトレードオフに着目した。その結果、捕食・盗葉緑体・共生のそれぞれについて、それらの状態に至るためのトレードオフの条件が明らかになった。各状態に至るトレードオフの違いは、共生の契機になるとされる藻類の糖漏出能や、捕食性の原生生物で知られる活性酸素の処理能の多様性に対応すると考えられる。宿主の消化レベルに着目した本研究は、共生系や盗葉緑体系に至る過程に新たな視点を提供する。


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