| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-05 (Oral presentation)
核内のゲノムはよく制御された3次元(3D)構造を示すことが分かっている.しかし,このようなゲノムの3D構造が種分化の過程にどのような影響を及ぼすのかは,ほとんど追究されていない.最近の研究では,ゲノムの3D構造が染色体再編性の生じる部位に影響することが示されている.例えば,染色体再編性は,topologically associating domain(TAD)の境界点を切断点として生じやすい傾向が知られる.本研究で我々は,染色体再編性の一種であり,遺伝子流動の障壁として機能することが知られる逆位に着目した.逆位の生じる部位に制約を与えることで,TAD構造が,遺伝子流動を伴いながら分岐しつつある種間のゲノム分化パターン形成の一翼を担うという仮説を立て,トゲウオ科魚類であるニホンイトヨとイトヨのペアを用いて検証した.まず,HiFiロングリードとHi-C技術を用いて両種の高品質ゲノムアセンブリを構築し,いくつかの染色体逆位を同定した.次に,集団ゲノム解析により,逆位領域では遺伝子流動が無く,逆位の無い領域よりも遺伝的分化が高いことが示された.また,Hi-Cデータを用いて,A/BコンパートメントやTADなどのゲノムの3D構造を明らかにした.最後に,逆位の切断点はTAD境界に位置する傾向があることが示された.以上からイトヨでは,ゲノムの3D構造は遺伝子流動の障壁となる逆位の位置を制約していることが明らかになった.今後3Dゲノム解析と集団ゲノム解析をさらに統合することで,ゲノムの3D構造が種分化にどのような影響を与えるかについて,新たな知見が得られると期待される.