| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-06 (Oral presentation)
種の絶滅は集団の絶滅の結果であり、生息地の分断化や喪失に起因する小集団化が引き金となる。理論的には、小集団化に伴って遺伝的多様性の喪失と、弱有害変異の蓄積が進むことによって集団の存続性が減少すると説明されている。しかしながら、小集団でありながら長期にわたり存続する例外もあるなど、小集団化の過程におけるゲノム内の遺伝的多様性動態や、遺伝子の機能的な反応はいまだよく分かっていない。ホトケドジョウ属魚類には、湿地帯に生息し近年の生息環境悪化による小集団化が知られる「ホトケ型」の他に、河川上流域の細流へ並行進出した「ナガレ型」が小集団で長期存続している。そのため、人為および自然条件下での小集団化に伴うゲノム進化過程を追究する良いモデルである。そこで、新規に染色体品質のゲノムを決定し、系統網羅的な全ゲノム解析を実施した。その結果、ナガレ型にはほとんど変異がなく、多数集団で共通するヘテロ接合性のホットスポットによって区切られたゲノム平坦化が見られた。ヘテロ接合性のホットスポットには免疫関連の遺伝子が多く見られ、こうした変異は小集団ながらも平衡選択によって維持されてきたと示唆された。また小集団から予想される有害変異の蓄積も見られなかった。一方で、ホトケ型集団では、一定の遺伝的多様性は維持されているものの有害変異蓄積の兆候が見られ、この傾向はヘテロ接合性のホットスポット近傍で顕著だった。これらの結果は、集団の存続性評価における機能遺伝子の多様性と、その維持機構に着目することの重要性を強調するものである。