| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-07 (Oral presentation)
多くの生物は季節を認識し、発生や繁殖などの生理現象を調節する。日長は毎年同じように安定して変動するため、季節認識のための主要な環境シグナルとして利用されている(光周性)。この一日の中での明暗の長さの認識には生物の持つ概日時計の仕組みが利用されている例が知られているが、その詳細な機構はまだ解明されていない。
ミジンコ(Daphnia pulex)も光周性を持つ生物である。長日ではメスのみで単為生殖を行う一方で、短日ではオスを産生する。産生されたオスは他のメスと交尾し、有性生殖卵である休眠卵を作ることで越冬する。仔虫の性は実験的に日長条件を変更するとすぐに応答して切り替わるため、ミジンコは光周性の制御機構の解析に適した生物であると言える。本研究では、ミジンコの日長に応じた性決定の制御に概日時計が関与しているかを、概日時計の機構を破壊したミジンコを作成することで解析した。
主要な時計遺伝子の一つであるperiodの第一エキソンにgRNAを設計し、CRISPR/Cas9法により、ホモでフレームシフト変異が導入されたperiodノックアウトミジンコを作出した。作出した系統を野生型がメスを産む長日(16L8D)、およびオスを産む短日(10L14D)下で飼育したところ、ノックアウト系統は長日短日にかかわらずメスを産んだ。この結果は、periodが短日を認識しオスを産生するために必須であることを示唆する。これらの結果をもとに、ミジンコが複雑な生活環を制御するために日長を含む様々な環境シグナルをどのように使い分け、水たまりから広い湖沼まで全く異なる生活環境に適応しているかについて考察する。