| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E01-09 (Oral presentation)
昆虫では、オスがメスよりも早く羽化する種が一般的である。この現象は、メスが羽化直後に交尾を済ませ、その後オスを受け入れなくなる分類群においてよく観察される。このような種では、オスにとって、メスより早く羽化して交配相手を待ち受けることが、繁殖成功度の上昇につながる。これまで、オスの羽化パターンやその進化要因を説明するために、数理モデルを用いた行動生態学的研究が行われてきた。
本研究では、日本産のオオウラギンヒョウモン (Fabriciana nerippe) におけるオスの羽化パターンに注目した。この種では、メスより早く羽化するオスと、メスと同時期に羽化するオスが同じ集団内に存在し、後者のオスは前者よりも大きな体サイズを持つことが知られている。このような二型の羽化パターンは他のチョウではほとんど観察されず、本種特有の特徴である。
そこで本研究では数理モデルを用いて、このようなオスの二型が存在する際のオスの羽化パターンを調べた。モデルでは、羽化の遅いオスは体サイズを大きくすることでメスを獲得しやすくなるという、羽化時刻と体サイズのトレードオフを仮定した。
二種類のオスが共存する条件で羽化パターンを解析した結果、羽化前の死亡率が高いほど、羽化の切り替わり時刻が早くなることが判明した。また、羽化の遅いオスが有利であるほど、羽化の切り替わり時刻が早くなることが示唆された。これらの結果は、環境条件や繁殖戦略がオスの羽化パターンの形成に重要な役割を果たしていることを示している。
さらに、羽化パターンの二型が持つ生態的意義に加えて、このような二型の羽化パターンがどのようにして進化的に形成されたのか、その起源についても量的形質の適応的な動態を分析可能なアダプティブダイナミクス理論を用いた解析をもとに議論をする。