| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-01 (Oral presentation)
動物相の形成は地史が大きく関わっており,特に八重山諸島には,過去に接続した台湾や大陸に近縁種・同種がみられる動物が数多く分布する.一方,八重山諸島の島間にも動物相の違いが見られるほか,島の個体群間の遺伝的分化の程度も,種によってさまざまである.ただ,浅い海に囲われる八重山諸島では台湾,島間の接続・分断といった地史がはっきりしておらず,現在の動物相の形成過程の説明が難しい.そこで,生物の集団構造や分布変遷を推定するには,遺伝子情報を用いた系統解析・集団遺伝解析と,環境・気候データと分布情報を用いた生態ニッチモデリング(ENM)を組み合わせる手法が有効である.
本研究で対象としたアイフィンガーガエル (Kurixalus eiffingeri) は,八重山諸島の石垣島,西表島と台湾に分布する樹上性のカエルである.本種のミトコンドリアDNAの4遺伝子領域(3271塩基対)を用いた系統解析では,石垣集団,西表集団はそれぞれ単系統群となった.MIG-seq解析で得られたSNPによるSTRUCTURE解析と主成分分析でも,石垣集団,西表集団は明確に区分された.CO1の遺伝距離は石垣集団-西表集団間で4.8%と種内変異としては非常に大きく,両島間の個体群間の推定分岐年代は,約141 (81—202) 万年前だった.また,ENMの一つであるMaxEntにより,最終氷期最盛期 (LGM) の気候データを用いて当時の分布を推定した結果,石垣島と西表島間の陸化した地域は生息適地ではなかったことが示された.
石垣島と西表島間の石西礁湖の水深は数十mと浅く,海水面が120mほど下がったLGMまで両島は断続的に陸続きとなったとされるが,陸橋内にアイフィンガーガエルの好適な生息地がなかったことから,古い時期からの地理的隔離が維持され,遺伝的交流がなかったことが示唆された.