| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-02  (Oral presentation)

温暖化はミズナラ・コナラの標高クライン変動を駆動するか?
Does global warming drive elevational cline shifts in Quercus mongolica var. crispula and Q. serrata?

*伊藤僚祐, 紺頼楓, 大村栗太, 砂山星也, 小野田雄介, 井鷺裕司(京都大学)
*Ryosuke ITO, Kaede KONRAI, Kurita OMURA, Seiya SUNAYAMA, Yusuke ONODA, Yuji ISAGI(Kyoto Univ.)

気候温暖化に伴う気温上昇や降水量の変化は,森林構成種の分布拡大・縮小や集団遺伝学的動態の変化を引き起こす。しかし、実際の分布変動や集団動態に対しては、単純な気温や降水量変化だけでなく、種間競争といった生物学的相互作用、さらには土地利用変化などの人為的影響も複雑に関与する可能性がある。これらの要因のもとで、集団遺伝学的動態がどのように変動するのかについての知見は不十分である。そこで本研究では、寒冷適応種であるミズナラ(Quercus mongolica var. crispula)と温暖適応種であるコナラ(Q. serrata)の交雑帯に着目し、標高クラインにおける両種の遺伝的変動を調べた。両種は、分布特性および葉形質の違いから寒冷適応種と温暖適応種としての生態的特性が明確であり、気候変動の影響を調べるための適したモデルとなる。3地点(宮城県釜ノ沢、滋賀県比良山、鳥取県蒜山)で、標高傾度に沿った交雑帯に生育する個体を対象に、合計450個体の全ゲノム多型データと葉形質データを取得した。遺伝子型の時系列解析を行うため、個体の樹齢を反映する指標として胸高直径(DBH)を用いた。ゲノム情報とDBHを用いたモデリングに基づき、過去200年間における交雑帯のクライン移動を推定した。さらに、sliding-window解析を用いて遺伝子領域ごとのクライン移動量を評価し、葉形質のGWASに基づく関連遺伝子や既知の機能遺伝子群における移動パターンが自然選択に起因する可能性を検討した。その結果、温暖化によって寒冷適応種は高標高へ移動すると予想されるが、本研究ではミズナラが低標高へ移動する傾向が示唆された。本発表では、交雑帯におけるクラインの変動に対する選択的・非選択的要因の関与について議論し、その進化的背景を考察する。


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