| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-03  (Oral presentation)

季節型の可塑性によってキタキチョウの休眠戦略が進化する条件とは?
Theoretical analysis of the evolution of diapause with sex-specific plasticity of seasonal polyphenism in the butterfly, Eurema mandarina

*廣瀬草太郎, 佐竹暁子(九州大学)
*Sotaro HIROSE, Akiko SATAKE(Kyushu Univ.)

 日本の温帯・亜熱帯域には、キタキチョウEurema mandarinaというチョウが広く分布しており、日長・気温条件によって成虫の季節型(夏型・秋型)が決定される。キタキチョウの季節型可塑性はオスとメスで異なるため、晩秋の温帯域集団では、非休眠型(夏型)と休眠型(秋型)のオス、休眠型のメスが同時期に発生する。2種類のオスは交尾時期と休眠の有無が異なり、非休眠型(夏型)オスは休眠前に、休眠型(秋型)オスは休眠後の時期にメスと交尾して、メスはその後に産卵することが明らかにされている。しかし、オスでのみ2種類の季節型が混在して羽化し、メスの交尾時期が休眠前後で2回生じることの適応的意義については、未だに不明な点が多い。
 そこで本研究では、非休眠型・休眠型オスの二型が進化する条件の解明を目的として、オスが休眠型として羽化する確率を形質値とする進化ゲームモデルを開発した。解析の結果、オスとメスの休眠成功率が低くても、メスの休眠成功率が休眠前交尾によって大きく向上するという条件下では、オスの二型が進化する可能性が示された。また、休眠前・休眠後の両方で交尾したメスが休眠型オスの精子を優先的に受精に用いるような条件下でも、オスの二型が進化し得ることが示唆された。すなわち、非休眠型オスがメスの生存率を向上するために都合よく利用されているような条件でもオスの二型が進化するという可能性を意味している。
 本研究は、キタキチョウの季節型に関する性特異的可塑性が進化してきた理論的背景を理解する上で役立つだけでなく、キタキチョウにおける精子優先や休眠前交尾がもたらす効果に関して、今後の実証研究の必要性を強く示すものである。


日本生態学会