| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-05 (Oral presentation)
擬態は、斑紋、行動、生息環境などが複合的に関与する適応形質である。これまでの研究では、擬態の機能に関する研究が主に進められ、斑紋や行動がどのように組み合わさるかについての知見は蓄積されてきた。しかし、擬態が新たに進化する過程で、これらの複数の形質がどのように相互作用しながら変化してきたのかについては、依然として理解が不足している。
本研究では、南米に生息するタテハチョウ科のコケイロカスリタテハ (Hamadryas feronia) を対象に、樹皮を覆う地衣類に擬態した斑紋の進化プロセスを解明した。一般的な蝶は翅を立てて休息するが、コケイロカスリタテハを含む4属は翅を広げて休息する特殊な行動を持つ。最初に、文献調査および分子系統解析の結果、この4属が単一のクレードを形成することが明らかとなった。次に、模様の画像解析を行い、Hamadryas属を含む近縁種で模様の複雑度を定量解析したところ、地衣類擬態になると急激に複雑度が増加していることがわかった。さらに、系統比較法を用いた解析により、翅を広げて休む行動形質が先に進化し、その後、斑紋の複雑化が進んだことが示唆された。本結果は、可塑性の高い行動形質が形態進化を誘導する可能性を示すものであり、環境適応における形質進化の順序性を理解する上で重要な知見を提供する。