| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-06 (Oral presentation)
局所適応は、生態的種分化の発端的状況とされる現象である。植食性昆虫では、地理的集団間で利用する寄主が異なるという寄主利用状況に関する地理的変異が存在する場合が多い。この地理的変異は、自身の寄主への適応を通じて、しばしば寄主利用能力における局所適応として検出される。
ヤマトアザミテントウ(以下、ヤマト)は、主にアザミ属植物(キク科)を寄主とするスペシャリストである。本種およびオオニジュウヤホシテントウを含む近縁な3種は“オオニジュウヤホシテントウ群(以下、オオニジュウ群)”と呼ばれており、寄主特異性の分岐という観点から種分化研究の好材料として研究が進められてきた。このような背景より、オオニジュウ群の種間における食性の差異というレベルでは知見が豊富に存在する一方で、ヤマト種内の詳細な食性に関しては知見が比較的少ない。ヤマトの寄主であるアザミ属植物は日本において著しい種多様性を示す分類群であり、それに伴ってヤマトには寄主利用状況に関する地理的変異が豊富に存在する。この事実は、オオニジュウ群内でみられるような寄主特異的な分岐がヤマト種内でも生じている可能性を示しているが、それを検討した研究は殆ど存在しない。
本研究では、東北地方のヤマト集団を対象に、集団分岐とみなせるような寄主利用能力における局所適応が広範囲で隠蔽的に生じており、生殖的障壁として機能しているという仮説を立て、検証に取り組んだ。特に、本発表ではミネアザミを寄主とするヤマト1集団とダキバヒメアザミ、キタカミアザミ、ナンブアザミのいずれかを寄主とするヤマト5集団間にみられる寄主への適応の様相に焦点をあて、幼虫と成虫の食性に基づく局所適応の様相および核SSRマーカー9座に基づく遺伝子流動の推定結果を報告する。最後に、ヤマトが示すアザミ属植物への局所適応の普遍性と促進条件に関して、主にアザミ属植物の地理的分布の様相から考察する。