| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-08 (Oral presentation)
孵化や出生直後の新生児は体格、運動能力、経験等において未熟で、捕食者や病気、環境変化に対して脆弱である。このため、親は子供に様々な形で投資し、子供の生存率を高めて自分の適応度を上げる。こうしたペアレンタルケアは子供に対しての餌の供給や保護、教育などが一般的であるが、毒を介するものも存在する。日本に分布するカエル食のヘビであるヤマカガシは、捕食したヒキガエルが持つブファジェノライド(BD)というステロイド毒を頸部にある器官に輸送、貯蔵し、捕食者から身を守る防御物質として再利用する。また、雌ヤマカガシは卵黄にBDを蓄積し子ヘビにBDを受け渡す。このBDの母体供給により、幼体は孵化直後であっても化学的な防御力を維持している。一方、ヤマカガシ属の中にはヤマカガシとは違い、ヒキガエルからではなくマドボタル亜科のホタルからBDを再利用するチフンヤマカガシ(チフン)が存在する。チフンは中国四川省に分布し、ヤマカガシと異なり主にミミズ類を餌とする。生態学的なニッチや利用する毒源生物のこうした違いはBDの母体供給に影響する可能性がある。そこで、チフンによるBDの母体供給能力を調べた。ヤマカガシでは、妊娠期において雌は雄よりもBD量が少ないことが知られているため、まずは妊娠期のチフンのBD量を解析した。その結果、BD量は体長とよく相関したものの、性差は見られなかった。次に、妊娠雌、産卵直後の卵、および孵化幼体のBD量を調べたところ、すべての妊娠雌でBDが確認された一方で、卵と孵化幼体ではBDは検出されないか、微量の検出のみであった。また、同程度のBD量を持つ妊娠メスから生まれた幼体のBD量をチフンとヤマカガシで比較すると、幼体のBD量はチフンの方がはるかに少なかった。以上より、チフンはヤマカガシに比べ、BDの母体供給能力が低く、孵化幼体の捕食者に対する化学的防御力はより低いことが示唆された。