| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-10 (Oral presentation)
泥炭地は地球の陸地の約3%に過ぎないが、土壌中の炭素の約30%を蓄積し、地球温暖化の抑制に影響している。しかし、温度上昇による泥炭の分解が、CO₂や溶存有機物(DOM)を放出し、大気や水圏環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。泥炭の分解は、易分解性有機物を多く含む根からの滲出物(RE)が、土壌生物のプライミング効果を引き起こすことで進行するといわれている。しかし根の滲出物に含まれる有機物の分子レベルでの情報は、未だ十分に分かっていない。近年、質量分析の一つであるFT-ICR MSを用いて草本種のREの分子種が同定された。そこで本研究は、泥炭地の樹木のREについて、①FT-ICR MSによる分子種同定、②泥炭の分解の関連分子の探索、を目的とした。
REはフィンランドにあるヨーロッパアカマツの泥炭地からフィリップス法を用いて採取した。その後、採取したREを泥炭に加え、泥炭を通って落ちてきた液体をREpとして採取した。本研究ではREを19サンプル採取し、そのうち5サンプルを分解実験に使用した。
採取したREとREpを FT-ICR MSで分析した。そして得られた炭素、水素、酸素の原子数からH/C値、O/C値を計算し、van Krevelen図を作成した。そしてH/C、O/C比により、脂質、タンパク質、アミノ糖/炭水化物、不飽和炭化水素、リグニン、タンニン、縮合芳香族化合物の7つの分子式グループに分けた。
本研究の結果、19サンプルのREには平均1077±496個、最大で1645個の異なる分子が含まれていた。どのサンプルのREもリグニンが最も多く、アミノ糖/炭水化物が最も少なかった。分子組成は泥炭に供与する前後で変化した。 実験の前後で、脂質、タンパク質、不飽和炭化水素の分子数に減少がみられ、リグニン、タンニン、縮合芳香族化合物には増加がみられた。