| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-16  (Oral presentation)

絶対相利共生系はストレス環境に脆弱なのか?〜微生物を用いた実験室進化による検証〜【B】
Are obligate mutualism vulnerable to stressful environments? ~Verification by laboratory evolution using microorganisms~【B】

*砂川純也, 山口諒, 中岡慎治, 前田智也(北海道大学)
*Junya SUNAGAWA, Ryo YAMAGUCHI, Shinji NAKAOKA, Tomoya MAEDA(Hokkaido University)

微生物は世界中のほとんどの場所に存在し、資源に関する競争または協力という相互作用を行っている。たとえば協力的相互作用は、微生物同士による代謝産物の交換が微生物群集の形成において基本的な役割を果たしている。とりわけ、ある生物同士が代謝産物(例えばアミノ酸)を供給してくれるパートナーの助けを借りなければ生存できないような協力様式(絶対相利共生)も存在する。絶対相利共生では、薬剤などの環境変化に直面したときの進化的帰結に影響を与えることも知られている。ある先行研究では、絶対相利共生にある微生物群集は環境変動に対して抵抗すると同時にパートナーの助けも必要としなければならないため、抵抗性の獲得が遅れて生存には不利であるという結論が得られている。一方で、環境変動に抵抗するための進化がパートナーの生存にも有利に働く場合(例えば薬剤を分解する酵素の分泌)では、群集の抵抗力進化が遅れない可能性がある。そこで本研究では、抗生物質を分解する酵素(β-ラクタマーゼ)を産生する緑膿菌Pseudomonas putidaを用いて、絶対相利共生が環境変動に不利にならないような可能性を実験的に検証した。まず、絶対相利共生系を構築するために、複数のアミノ酸要求性株を構築し、共培養を行い増殖の有無を確認した。続けて、増殖が確認されたペアを用いて、薬剤への抵抗性を確認するための実験室進化を行った。実験室進化では、予め構築した自動制御装置を用いて、薬剤がない場合の最大増殖率に対して半分の増殖率を維持するように薬剤を与え続けながら進化させた。その結果、絶対相利共生を形成している共培養系は、単独培養系と比較して生存可能な薬剤濃度は低く、先行研究と同様に生存には不利であることが示された。一方、薬剤耐性能の増加量(fold change)は同等である可能性も示唆された。本発表では、絶対相利共生系の脆弱さ/頑健さを示す条件ついて、本研究の実験観察結果を下に議論する。


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