| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-17  (Oral presentation)

生態-進化動態と相利系の安定性
Eco-evolutionary dynamics and stability of mutualism

藤田大樹, *江副日出夫(大阪公立大学)
Daiki FUJITA, *Hideo EZOE(Osaka Metropolitan Univ.)

相利(異種生物個体間の互いに正の相互作用)の典型的な例として、マメ科植物-根粒菌系や種子捕食送粉系など、比較的大型の種の個体(宿主)と小型の種の複数個体(共生者)の間の相利がある。このような系において、宿主に対する貢献なしに宿主から報酬を得ようとする非相利的な共生者の蔓延を防ぎ相利を安定に存続させるためのメカニズムとして、宿主の共生者選択や制裁が考えられてきた。しかし、そのようなメカニズムが無くても存続しているような相利系も存在する。この研究では、共生者の進化動態と宿主および共生者の個体群動態との間の相互作用を考え、宿主による共生者選択や制裁なしで相利が安定に維持される可能性を理論的に探る。
宿主個体群と、相利者と非相利者の2系統からなる共生者個体群を考える。宿主は複数の共生者とランダムに共生し、宿主1個体が共生する共生者数の期待値は共生者と宿主の密度比に等しいとする。共生者のうち相利者のみがコストを払って宿主に利益を与え、宿主はそれに比例した報酬を共生者全員に平等に与える。宿主の適応度は共生者から得た利益に比例し、共生者の適応度は宿主から得た報酬とコストの差に比例する。共生者のうちの相利者の頻度、共生者密度、宿主密度の時間変化を連立微分方程式により解析した。まず宿主密度が一定と仮定した場合、共生者中の相利者頻度と共生者密度は平衡点に収束せず振動する。宿主密度が時間変化する場合、宿主と共生者の個体群に密度効果がなければ宿主と共生者の個体密度はともに発散する。共生者にのみ密度効果がはたらくときは、相利者と非相利者が共存する平衡点(共存平衡点)が存在しても不安定である。いっぽう宿主にのみ密度効果がはたらくときは、宿主個体群の動態の速度が充分に遅いときにのみ共存平衡点が安定となり、相利が安定に維持されるという結果が得られた。


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