| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-19  (Oral presentation)

鯨類のヒレの3次元形状が生み出す流体力の種間比較
Inter-species comparison of hydrodynamic forces produced by the three-dimensional shape of cetacean fins

*三岡夏美(東京農業大学), 岡村太路(名古屋大学), 西村双葉(神奈川県博), 菊地デイル万次郎(東京農業大学)
*Natsumi MITSUOKA(Tokyo Univ. of Agri), Taro OKAMURA(Nagoya Univ.), Futaba NISHIMURA(Kanagawa Pref. Mus. Nat. Hist.), Dale M. KIKUCHI(Tokyo Univ. of Agri)

 鯨類は3種類のヒレを持つが、その形態は個体内の各ヒレごと、また種ごとに多様である。ヒレの3次元形状は流体力の生成を介して遊泳能力に影響するため、その形態がもたらす流体力の検証からは、その個体・種レベルにおける各ヒレの機能の関係を明らかにできると期待される。しかしながら、これまでの研究は胸ビレを中心に特定のヒレの種間比較に限られており、3種類のヒレの流体特性を種内・種間で比較した研究はない。
 そこで本研究では、幼体を含む小型鯨類4種6個体の各ヒレの3次元形状を3Dスキャナを用いて計測し、回流水槽でヒレの流体力を測定した。ヒレのスキャンデータからCADソフトを用いて断面が対称翼となる表面が滑らかなモデルを作成し、3Dモデルの幾何学形状(平面形や翼型)を計測した。また、ヒレが生む流体力を計測するために3Dプリンタで印刷した模型を回流水槽内に設置して、遊泳時の流れを再現した状態で、流れに対する角度(迎角)を変えて、揚力と抗力を計測した。
 最大揚力係数を種間で比べると、胸ビレと尾ビレではスジイルカが、背ビレではイロワケイルカが最も大きかった。最小抗力係数は、全てのヒレでスジイルカが最も小さかった。スジイルカの幼体と成体で3種類のヒレの流体特性を比較したところ、胸ビレと尾ビレは成体で大きく、背ビレは幼体の方が大きい値を示した。
 本研究では、小型鯨類における種間及び成長段階の異なる個体間の3種のヒレの流体特性とその幾何学形状特性を調べた初めての研究である。今後、対象種数と個体数を増やすことで、種内における3種のヒレの形態的多様性や成長に伴う変化、さらには種間差異がもたらす機能的意義を解明できると期待される。


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