| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-20  (Oral presentation)

血管構造の可視化から探るオガワコマッコウの尾鰭・背鰭における熱交換機構の意義
Visualization of vascular structures and heat exchange mechanism in the caudal and dorsal fins of the dwarf sperm whale

*スミスアシュレイ梨花(東京大学), 岡村太路(名古屋大学), 三上智之(国立科学博物館), 西村双葉(神奈川県博), 白形知佳(新江ノ島水族館), 安井謙介(豊橋市自然史博物館), 浅川修一(東京大学), 依田憲(名古屋大学)
*Ashley Rinka SMITH(The University of Tokyo), Taro OKAMURA(Nagoya University), Tomoyuki MIKAMI(NMNS), Futaba NISHIMURA(Kanagawa Pref. Mus. Nat. Hist.), Chika SHIRAKATA(Enoshima Aquarium), Kensuke YASUI(Toyohashi Mus. Nat. Hist.), Shuichi ASAKAWA(The University of Tokyo), Ken YODA(Nagoya University)

本研究は、オガワコマッコウ (Kogia sima) の尾ビレおよび背ビレにおける血管構造を三次元画像解析技術を用いて解明することを目的とした。座礁個体から採取した標本に対し、X線コンピュータ断層撮影 (CT) を用いた詳細な血管網の再構築を実施した。
解析の結果、尾ビレおよび背ビレにおける動静脈の走行が三次元的に観察された。尾ビレでは4本の対交流熱交換系の血管がヒレの弧に対し緩やかに曲がり、表層には網目状の血管が確認された。背ビレでは中心に対交流熱交換系の血管が走行しており、表層には網目状の血管が確認された。ともに対交流熱交換系の血管と表層の網目状血管との間には明確な接続は確認されなかった。これらの結果は、オガワコマッコウの血管構造が体温調節に寄与し、深海環境への適応に重要な役割を果たしている可能性を示唆する。背ビレおよび尾ビレでは、高度に分岐した血管網が表層に形成されていることが染色によっても確認された。
本研究の成果は、鯨類の体温調節に関する基礎的知見を提供するとともに、海洋哺乳類の進化的および機能的適応の理解を深化させるものである。今後、他のハクジラ類およびヒゲクジラ類との比較研究を通じて、潜水生理および熱調節戦略における血管特異性の解明が期待される。


日本生態学会