| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-20 (Oral presentation)
本研究は、オガワコマッコウ (Kogia sima) の尾ビレおよび背ビレにおける血管構造を三次元画像解析技術を用いて解明することを目的とした。座礁個体から採取した標本に対し、X線コンピュータ断層撮影 (CT) を用いた詳細な血管網の再構築を実施した。
解析の結果、尾ビレおよび背ビレにおける動静脈の走行が三次元的に観察された。尾ビレでは4本の対交流熱交換系の血管がヒレの弧に対し緩やかに曲がり、表層には網目状の血管が確認された。背ビレでは中心に対交流熱交換系の血管が走行しており、表層には網目状の血管が確認された。ともに対交流熱交換系の血管と表層の網目状血管との間には明確な接続は確認されなかった。これらの結果は、オガワコマッコウの血管構造が体温調節に寄与し、深海環境への適応に重要な役割を果たしている可能性を示唆する。背ビレおよび尾ビレでは、高度に分岐した血管網が表層に形成されていることが染色によっても確認された。
本研究の成果は、鯨類の体温調節に関する基礎的知見を提供するとともに、海洋哺乳類の進化的および機能的適応の理解を深化させるものである。今後、他のハクジラ類およびヒゲクジラ類との比較研究を通じて、潜水生理および熱調節戦略における血管特異性の解明が期待される。