| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-03 (Oral presentation)
通常、動物や植物の進化遺伝学的研究において個体は母親と父親由来の2セットの染色体セットをもつ複相(diploid)であることが暗黙に想定される。しかし、しばしば生物はその仮定から逸脱し、例えばシダ植物は主要な個体と認識される複相の胞子体とは別に、独立栄養生活を送る単相(haploid)の配偶体をもち、それら二つのステージ間で世代交代が生じる(haploid-diploid生活環)。
シダ植物はこの特異的な生活環に由来する複雑な繁殖様式を示すことが知られている。雌雄同株である単相の配偶体が雌性と雄性の配偶子をつくり、同一配偶体由来の雌雄配偶子が受精することにより起こる自殖(配偶体性自殖)は、一般の種子植物等で想定される自殖とは異なり、確実に一世代で完全な純系個体を産み出す。また、配偶体の立場では他殖でも、交配する配偶体が同一の親胞子体に由来する場合、これは胞子体の立場では自殖をしていることと同義であり、胞子体性自殖と呼ばれる。以上の特徴より、シダ植物では配偶体性自殖、胞子体性自殖、他殖(真の意味での)の三種類の繁殖パタンを示し、これらが野外でどれだけの頻度で生じているのかという問題は古くから興味の対象になっていた。本研究では、このシダ植物における自殖モードを集団遺伝学的手法で推定する方法について理論的に検討する。
まず先行研究で解析された集団遺伝学的動態を同祖過程に基づく数理モデルに焼き直すことで得られる固定指数(FIS)相当の統計量が、シダ植物における繁殖モードの情報を確かに持っていることを確認し、無限集団において先行研究と同一の公式が導かれることを確認した。次に胞子体とは別に配偶体の存在を明示的に考慮したより現実的なモデルを構築し、数値シミュレーションにより推定されたFISが従う分布とそのパラメータ依存性を調べた結果を報告する。