| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-04 (Oral presentation)
都市化は生態系に大きな変化をもたらし、気温上昇、汚染、種間相互作用の変化などを通じて独自の淘汰圧を生み出す。また、都市化による生息地の分断は遺伝子流動の減少や遺伝的浮動の増幅を引き起こし、適応進化を制約する可能性がある。このような複雑な進化的要因が交錯する都市-田舎間の環境勾配は、生物の表現型に地理的勾配(クライン)を形成し、適応的および非適応的プロセスに関する洞察を提供する。
都市進化による表現型勾配のよく研究されている例として、シロツメクサ(Trifolium repens)の被食防御形質であるシアン化水素(HCN)多型のクラインが挙げられる。一般に都市部では植食性動物が減少するため、HCN頻度が低下する傾向が観察される。しかし、HCN生成を制御する遺伝形質がエピスタティックな構造を持つため、遺伝的浮動や遺伝子流動がクライン形成に寄与することが指摘されている。実際、世界規模のHCNクライン解析では、複数の都市-田舎傾向から外れる例が観察され、局所環境要因や確率的プロセスがクライン形成を変化させる可能性が示されている。
本研究では、都市-農村間の環境勾配による自然淘汰勾配と遺伝子流動勾配との相互作用を通じてメンデル遺伝多型のクライン形成に与える影響をシミュレーション解析で検討した。その結果、都市部で遺伝子流動が極端に少ない場合には、初期段階で適応的な淘汰勾配に沿ったクラインが形成されるものの、世代を経るにつれ遺伝子流動勾配の影響が強まり、非適応的進化プロセスによるパターン変化が確認された。この現象は都市環境における非適応的プロセスの重要性と、都市-田舎クラインが時空間的にダイナミックに変化する可能性を示唆している。これらの結果は非平衡状態で進行する進化過程を捉えるモデル構築や長期モニタリングの必要性を強調するものである。