| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-05  (Oral presentation)

性転換魚において劣位個体が雌になるのは、優位個体による追放を回避するためか?
On the role of eviction in group living sex changers

*山口幸(東京女子大学), 巌佐庸(九州大学)
*Sachi YAMAGUCHI(Tokyo Woman's Christian Univ.), Yoh IWASA(Kyushu University)

サンゴ礁に生息する性転換魚の多くの種では、優位な1個体が雄になり複数の劣位個体が雌になって1つの交尾グループ(ハレム)を形成する。しかしヒメスズキ属Serranusの2種では、劣位個体は全て同時的雌雄同体であり、スニーカー(グループ内で雄機能を示す個体)として行動する。本研究では、性転換魚の劣位個体が雌である種において、自ら雌になることを選択しているのか、それともハレム雄による追放を避けるために雄機能を放棄させられているのかについて検討した。
 次の2つの条件を考慮した多段階ゲームモデルを考えた。
条件1:優位個体は雄になり、卵受精における精子競争が高い場合には、劣位雌雄同体個体の一部をハレムから追放することができる。
条件2:劣位個体はハレムから追放されると繁殖の機会を失う。そのため各劣位個体は雄から追放されるリスクを考慮して、追放されないように自らの性配分を選択する。
モデル:まず劣位個体が自らの性配分を決める。それを知った上で、優位個体がそれぞれの劣位個体を追放するかどうか決める。
 モデルを解析した結果、進化的に安定した状態では、以下のことが成立する。
[1]劣位個体間の繁殖資源量の差が小さいと、優位雄による追放は生じない。劣位個体間の繁殖資源量に大きな差がある場合には、優位雄は一部の劣位個体を追放する。
[2]劣位個体全体の雄機能の合計が、優位個体の雄機能よりも小さい場合には、劣位個体全てが雌になる。
[3]上記以外では、全ての劣位個体が同時的雌雄同体となる。劣位個体の中で、繁殖資源量が大きな個体の間では雄機能への投資が等しいが、雌機能への投資は大きく異なる。繁殖資源量の小さな劣位個体は、追放されるリスクを回避するように雄への投資を減らす。
 以上の結果から、ほぼ全ての性転換魚において、ハレム雄による追放の可能性が劣位個体の性配分に影響を与える状況は、実際には限定的だと考えられる。


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