| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-06  (Oral presentation)

血縁者間の混合戦略をともなう協力ゲームに現れる複雑な適応地形【B】
Complex evolutionary landscape in kin cooperation game with mixed strategy【B】

*山内淳(京都大学)
*Atsushi YAMAUCHI(Kyoto University)

 生物の協力の進化を理論的に研究する手法に、適応ダイナミクスに基づく連続協力ゲームの解析がある。そこでは一般に、生物の戦略として単一な協力レベルを想定する。しかしながら血縁集団における利他行動の理論研究では、集団のパフォーマンスに貢献する協力個体と繁殖に特化した非協力個体への労働分業が進化することが示されている(Michod et al., 2006)。分業では、単一の遺伝子から複数の異なるタイプが生じ、それらの組み合わせが戦略とみなされる。このような戦術の組成に関する戦略を、各戦術が生じる確率に着目する混合戦略と区別して、非対称戦略と呼ぶことにする。労働分業で非対称戦略を生じるメカニズムは、協力ゲームにおいても作用するはずである。そこで、Yamauchi (2024)による労働分業の解析手法を発展させ、血縁集団での協力の進化を非対称戦略を考慮した協力ゲームによって解析した。
 解析の結果、単一な戦術だけをとる対称戦略に注目したモデルに対して、非対称戦略の進化を可能にしたモデルでは進化の挙動が大きく異なっていた。そこでは、系統内での協力レベルの連続的な分布が進化した結果、完全に非協力な個体と完全に協力的な個体への二極化が生じうることが示された。基本モデルでは、系統内の非協力個体と協力個体の数を実数として扱ったが、個体数である以上それは整数として扱う方が自然である。そこで改めて、各戦術の個体数を整数とする制約を取り入れてゲームの解析を行った。するとその場合には、適応地形が非常に複雑な構造を示すことがわかった。そこでは複数の進化平衡状態が現れ、そのいずれに収束するかは進化の歴史性に依存する可能性がある。この進化特性は、社会性を持つ生物でのカーストの比率や、多細胞生物における生殖系列と繁殖系列の細胞の比率などにみられる種内バリエーションを生み出すメカニズムになっているかもしれない。


日本生態学会