| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-07  (Oral presentation)

植食性昆虫の採餌戦略が植物-昆虫群集の多様性に及ぼす影響【B】
The Impact of Feeding Strategies of Herbivorous Insects on Diversity of Plant-Insect Communities【B】

*難波利幸(大阪公立大学)
*Toshiyuki NAMBA(Osaka Metropolitan University)

 数百万種といわれる地球上の生物のうち,昆虫は50%以上,高等植物は約20%を占め,昆虫の中でも植食性昆虫は全体の約25%と大きな割合を占める。そこで,生物多様性の維持機構を明らかにするには,植食性昆虫と植物の相互作用を,その関係に特徴的な性質に基づいて記述した大規模な数理モデルを調べる必要がある。
 植物が繁殖し多くの子孫を残すためには昆虫による攻撃に備える必要があり,植食性昆虫が繁栄するためには植物の防御を克服して多くの子孫を残す必要がある。昆虫に対する植物の防御は,少量でも昆虫の代謝を妨げる二次代謝物質による質的防御と,昆虫が消化しにくいリグニンやタンニンなどを用いた量的防御に大別される。昆虫が質的防御を打ち破るには毒性を持つ二次代謝物質を無毒化する必要があり,これを成し遂げる昆虫は特定の少数の植物にのみ対応できるスペシャリストとなる。他方,質的防御を克服できない昆虫は,少量では効果を発揮しない量的防御を行う多くの植物種を利用するジェネラリストとなる。スペシャリストは,他の多くの昆虫が利用できない植物を食草とすることで消費型の競争を避けられるが,少数の食草の生物量が減ると絶滅の危機にさらされる。これに対してジェネラリストは多くの植物種を利用することで一部の食草が減っても他の食草で補うことができるが,多くの食草を他のジェネラリストと共有することで消費型の競争による絶滅の危機を避けられない。
 それでは,スペシャリストとジェネラリストの種数や個体数のバランスはどのようにして決定されるのであろうか? 本講演では,離散世代の個体群動態を記述する多数の連立差分方程式からなる数理モデルを構築し,植物間の種間競争の強さ,スペシャリストが利用する補助的食草の割合,ジェネラリストが利用する食草の種数などをもとに,スペシャリストとジェネラリストのバランスを決める要因を解明することを目指す。


日本生態学会