| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) E03-11 (Oral presentation)
樹木では、さまざまな揮発性有機化合物(BVOC)を放出することで、高温、病原菌、植食者などの脅威に対して防御する。BVOCにはイソプレンやセスキテルペン類が含まれる。その中でもイソプレンは葉が受ける熱ストレスへの耐性を高める。イソプレンは揮発性が高く、BVOCの中で最も多く産生され、気象を変化させる。BVOC産生について特にアラカシやマテバシイでは 、イソプレン生産経路にある遺伝子の発現は初夏に、セスキテルペン類生産経路にある遺伝子の発現は春の展葉期にピークが確認され 、季節性を持つことが知られている[文献1]。
本研究では、どの季節にイソプレンを生産することが樹木にとって炭素収支の面で有利かを知るため、イソプレン産生の最適スケジュールを、制御理論の数理(ポントリアーギンの最大原理)を用いて解析した。一斉に展葉した葉面積が従う微分方程式を考慮した。熱ストレスが真夏に高くなる効果は、葉面積の喪失速度が夏に高くなるが、イソプレンを生産することでそれを抑制できる。一般には光合成速度や揮発による消失率も季節的に変化する。
計算の結果、夏にイソプレン生産のピークを持つことが最適になることがわかった。一方で、光合成速度やイソプレンの揮発性が真夏に高くなる場合には、樹木はイソプレンを春に生産するのが最適であることがわかった。
マテバシイやアラカシのデータでは夏にイソプレン生産に関与する遺伝子が真夏に発現している理由としては、熱ストレスの季節性が重要だと結論した[文献2]。
[文献1] Satake, A., et al. 2024. Plant molecular phenology and climate feedbacks mediated by BVOCs. Annual Review of Plant Biology 75. doi.org/10.1146/annurev-arplant-060223-032108
[文献2] Iwasa, Y., Hayashi, R., and Satake, A. 2024. Optimal seasonal schedule for the production of isoprene, a highly volatile biogenic VOC. Scientific Reports 14:12311 doi.org/10.1038/s41598-024-62975-3