| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-16  (Oral presentation)

迅速な進化は振動依存の多種共存をどのように促進するか?【B】
How does rapid evolution promote fluctuation-dependent multi-species coexistence?【B】

*山道真人(国立遺伝学研究所), 郭鴻霆(国立台湾大学, 国立遺伝学研究所), 柴﨑祥太(国立遺伝学研究所)
*Masato YAMAMICHI(Natl. Inst. Genet.), Hung-Ting KUO(Natl. Taiwan Univ., Natl. Inst. Genet.), Shota SHIBASAKI(Natl. Inst. Genet.)

近年になって、迅速に起こる進化が絶滅を防いだり、捕食者と被食者の個体数振動のパターンを変えたりといったテーマが精力的に調べられるようになってきた。そのような迅速な進化が個体群動態にもたらす影響の研究が進む一方で、迅速な進化が群集動態に及ぼす効果については明らかになっていない点が多い。最近では、迅速な進化が多種共存を促進する効果が注目を集めているが、多くの理論研究では、定常環境における種内競争と種間競争の間のトレードオフを仮定してきた。そこで本研究では、迅速な進化が個体数振動を介して競争種の共存を促進する効果を、数理モデルを用いて調べ、新しい共存メカニズムを提唱する。

まず、消費者2種が資源1種をめぐって競争している系で、消費者が迅速に進化する状況を考える。この場合、定常環境で競争劣位の種が、資源量の変化に応じて機能的反応を迅速に進化させ個体数振動を安定化すると、相対的非線形性による共存が可能になるパラメータ領域が広がることが明らかになった。これは、(定常環境での)競争能力と進化速度の間のトレードオフと見ることもできる。

次に、同じ系で資源の種が迅速に進化して個体数振動を起こし、消費者2種の共存を促進するメカニズムが考えられる。マイクロコズム実験により、資源(植物プランクトン)の進化が消費者(動物プランクトン)との個体数振動を起こすことが知られている。そのため、このメカニズムは実験的に確かめることが可能かもしれない。また、二つのメカニズムを組み合わせ、資源と消費者の共進化が起こることでも共存が促進される。

最後に、1種の捕食者を共有する2種の被食者の見かけの競争においても、被食者が迅速に進化することで個体数振動を安定化し、安定共存が可能になる場合が考えられる。今後はさらに、食物網モデルにおける共進化動態で、振動を介した共存がどのように促進されるのか、調べていくことが重要だろう。


日本生態学会