| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E03-17  (Oral presentation)

時計遺伝子プロモーターにおけるヒストン修飾レベルの概日リズム変動に関する数理解析
Mathematical Analysis of Circadian Rhythm Fluctuations in Histone Modification Levels at the Clock Gene Promoter

*豊福直也, 工藤秀一, 佐竹暁子(九州大学)
*Naoya TOYOFUKU, Shuichi KUDO, Akiko SATAKE(Kyushu University)

植物は約24時間周期で遺伝子発現量が変動する概日時計を持ち、それによって成長や代謝は制御されている。これらを適切なタイミングで行うために、外的環境の変動に応じて時計遺伝子の発現量を調節することは重要である。さらに、遺伝子発現はヒストンのアセチル化やメチル化によっても制御されている。植物の時計遺伝子のプロモーター領域では、ヒストン修飾レベルが概日リズムを示すが、その機能的な意義は不明である。そこで本研究では、ヒストン修飾レベルの概日リズムが時計遺伝子の発現に及ぼす影響を、数理モデルを用いて検討した。
 モデル化において、植物の時計遺伝子のプロモーター領域のH3K4me3による転写の活性化に着目した。この効果を、複数の時計遺伝子による転写フィードバックループに組み込んだ。さらに、ヒストン修飾状態が遷移すると仮定し、時計タンパク質によるヒストンメチル化転移酵素の活性化と、脱メチル化酵素の抑制を再現した。また、光環境の一時的な変動が時計遺伝子の発現に及ぼす影響を明らかにするために、光撹乱が起こる場合も検討した。このとき、ヒストン修飾状態の遷移がある場合とない場合で、時計遺伝子の発現変動を比較した。
 その結果、光撹乱による時計遺伝子の発現変動が遷移なしでは2日後までに減衰した。一方、遷移ありでは発現変動が4日後にも持続していた。さらに、光撹乱の影響は夜間に最大になることが分かった。
 本モデルは、概日リズムを持つヒストン修飾レベルの変動が時計遺伝子の発現に及ぼす影響を明らかにすることにつながる。今後は、気温変化など光環境以外の外的環境の変動の効果や、より多くのヒストン修飾状態の種類をモデルに組み込むことで、時計遺伝子の発現変動にヒストン修飾が与える影響をより詳細に検討する必要がある。


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