| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) E04-04  (Oral presentation)

「進化」の概念をどう伝えるか―バードウォッチングと生態学入門を組み合わせた実践―
How do we communicate the concept of "evolution"? ―A case study of a workshop combining birdwatching and an introduction to ecology―

*矢崎英盛(東京都立大学), 橋本いぶ希(東京都立大学), 沖田耕一(聖光学院中・高)
*Hidemori YAZAKI(Tokyo Metropolitan University), Ibuki HASHIMOTO(Tokyo Metropolitan University), Koichi OKITA(Seiko Gakuin High School)

「進化」は、生態学・進化学のみならず生物学全体を通底するキーファクターであるにもかかわらず、社会における誤解・誤用の少なくない概念でもある。発表者らは昆虫生態学の研究と並行して、基礎科学に関心を持つ市民の裾野を広げるための科学コミュニケーションの実践を試みる中で、「実体験」を効果的に利用しながら科学理解を促進する手法の試行錯誤を行ってきた。今回は2024年3月に横浜市の聖光学院中学校・高等学校で開催した、バードウォッチングとワークショップを組み合わせた「進化」を題材とする生態学入門講座について報告する。参加者の75%が野鳥への強い興味がなく、進化概念の認識も曖昧な中学生たちに対して、まずネイチャーガイドの技術を活用したフィールドでの観察実践を通じて、身近な生物への親しみとその行動や形態への好奇心を促す基盤となる効果的な実体験の創出を試みた。それを踏まえた室内ワークショップでは、野外で観察した生物の行動や形態の背景に「進化」のプロセスがあることを実感させ、その概念への興味を高めるために、野鳥(捕食者)と昆虫(被食者)との「進化的軍拡競争」をモチーフにしたゲーム形式のグループワークを実施した。このように生物そのものと進化概念への関心の土台を丁寧に醸成した上で、自然選択の理論や獲得形質の遺伝の否定といった進化の基本的メカニズムの講義を行い、あわせて生徒たちが自由に発想したはずの進化ゲームのアイデアのほとんどが現実の生物の特徴として実際に存在していることを紹介し、生物進化のしくみとその驚異的な多様性を体感してもらう機会とした。その結果、事後アンケートでは「進化に意思が反映されないと知った」「退化も進化の一部だとわかった」など、約80%の生徒たちが進化概念への理解が深まったと回答し、実体験による興味関心の向上を基盤に、スムーズな進化概念の理解につなげることができた。


日本生態学会