| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-01  (Oral presentation)

日本の絶滅危惧種のゲノム情報の集積状況ーいま手を打つべきなのはどの種か?【B】
Cataloging the availability of genome sequences for endangered species in Japan: where is the cold spot?【B】

Kirill KRYUKOV(ROIS-DS), 中濱直之(兵庫県立大学), *工樂樹洋(国立遺伝研, 総合研究大学)
Kirill KRYUKOV(ROIS-DS), Naoyuki NAKAHAMA(U. Hyogo), *Shigehiro KURAKU(NIG, SOKENDAI)

種の存続の鍵を握る遺伝的多様性を正確に把握するうえで、全ゲノム配列の読み取りは大前提となる。DNA配列はまた、その生物種の生態・形態・行動の特徴を決める分子基盤についての情報も含んでいる。この両方の意味で、全ゲノム情報の読み取りは生物多様性の理解に不可欠だが、これまでに手がつけられた種はほんのひと握りである。そこで我々は、日本に生息する野生生物のうち、希少とされる種に注目し、全ゲノム情報の集積状況を一覧できるデータベース Genome sequence data availability for the Japanese Red List (https://treethinkers.nig.ac.jp/redlist/)を構築した。このデータベースは、「環境省レッドリスト2020」と「環境省版海洋生物レッドリスト」において希少とされる種について、NCBIの全ゲノム配列情報の登録状況をカタログ化したもので、まとめられた情報は、ウェブブラウザ上で一元的に閲覧可能である。分類単位ごとの集積状況も一目で確認することができ、世界各地から日々登録される新しい情報を反映するため、高頻度で表示内容を更新する機能も備えている。ゲノム情報の読み取りには、長鎖DNAの抽出やDNA分子の核内3D構造の捕捉に適した試料の確保だけでなく、広範な利用に耐える配列情報を整備する技術力が必要である。数々の技術革新と最適化によってコストや計算にかかる時間が削減されたとはいえ、ゲノムの総塩基数に応じてときに数百万円の費用がかかるうえ、専門技術を有する人員の労力も少なくない。そういった制限のある中、着実に情報集積を進めるため、海外には国の主導で土着の生物種の優先度を整理し、先制的にゲノム情報取得を進めているケースも少なくない。本データベースは、こういった取り組みを日本で進めるにあたり、集積された情報の偏りを把握したうえで優先度を見極め、先制的に情報を効率よく取得する道しるべになると期待される。


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