| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
一般講演(口頭発表) H01-03 (Oral presentation)
生物が持つ体内外の形態は、その種の生態を反映している。そのため、隠蔽的な環境に生息する生物や室内飼育が難しい生物であっても、形態観察を通してその生態をある程度予想することが可能である。シロアリの巣に特異的に見られる好白蟻性ハネカクシは、カブトガニ型や腹部肥大型など、シロアリ社会への適応と考えられる特殊な収斂形態を持つ種が多く知られ、シロアリとの口移しの栄養交換と思われる行動も複数の種で観察されている。しかし、好白蟻性ハネカクシの累代飼育に成功した例はこれまでになく、生態に関する知見も採集時の直接的な観察によって得られたものが殆どである。そのため、好白蟻性ハネカクシの食性や分散戦略、生殖様式に関する知見は非常に限られている。そこで本研究は、ヒゲブトハネカクシ亜科において好白蟻性種で構成される3系統と、これらの姉妹群系統に属する自由生活性種の合計7族10属10種を対象に、µCTを用いて頭部の大顎筋、胸部の飛翔筋、および雌の腹部内の卵の観察を行った。大顎筋については、好白蟻性種で退化傾向にあることが予想されたが、観察の結果、系統や収斂形態の間で大きな違いは見られず、好白蟻性種は自由生活生種と同様に大顎を十分に利用していることが示唆された。一方、飛翔筋については、全ての好白蟻性種と一部の自由生活生種で退化傾向にあり、これらは全て飛翔能力を持たないことが示唆された。ただし、これらの好白蟻性種の中には、衝突版トラップによる採集記録があるものも含まれる。卵については観察例が好白蟻性4種に限られたものの、卵の数や大きさは様々であり、系統や収斂形態に応じた傾向は見られなかった。本発表では、これらの観察結果に加えて、演者によるこれまでの野外調査における直接的な観察で見られた行動などを示しながら、好白蟻性ハネカクシの大顎の用途や分散戦略、生殖様式について考察する。