| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨
ESJ72 Abstract


一般講演(口頭発表) H01-04  (Oral presentation)

昆虫寄生性Tylenchina亜目線虫の棲み分けと利用する宿主の傾向
Habitat segregation and host utilization trends of entomoparasitic nematodes in the Suborder Tylenchina

*Yuta FUJIMORI(Meiji University), Natsumi KANZAKI(FFPRI), Ryoji SHINYA(Meiji University)

Tylenchina亜目に属する昆虫寄生性線虫は様々な昆虫に寄生し、生活史に基づいて絶対寄生者と条件的寄生者に大別される。前者は生活環の完遂に昆虫への寄生が必須である一方、後者は2つの生活環を有しており、昆虫寄生だけでなく糸状菌食性に基づいた自由生活も行う。しかし条件的寄生者の既知種はほとんどキバチ特異的な寄生者であり、この特異的かつ柔軟な生活環はキバチへの適応の結果獲得された形質なのか、他の昆虫にも広く存在し得る形質なのかが不明であった。
そこで演者らは網羅的な調査を行い、これまでの調査で14種に及ぶ昆虫寄生性Tylenchina亜目線虫の未記載種を発見した。また培養試験を通じてこのうち8種が条件的寄生者であることを確認した。新たに発見された条件的寄生者の宿主は木材嗜好性の甲虫であるカミキリムシ科、ゾウムシ科、ナガクチキムシ科であり、条件的寄生者はキバチに限らず木材嗜好性昆虫に広く存在することを証明した。さらに、線虫の系統解析から条件的寄生者は異なる系統群に存在することが明らかとなった。一方で、絶対寄生者はキクイムシ、ハネカクシ、ハサミムシ等から得られ、既知種の宿主と併せて宿主の寿命が短い傾向にあると考察した。すなわち、条件的寄生者の宿主は年一回あるいは数年に一度のペースで世代交代が起こるのに対し、絶対寄生者の宿主は年に複数回の世代交代が起こる傾向にある。従って条件的寄生者は宿主の待機期間への適応として部分的な自由生活を獲得した可能性があると考えた。
この調査の過程で同じ樹種を利用する2種のカミキリムシから異なる線虫が得られ、利用する宿主に基づく棲み分けが起きている可能性を示した。一方で、絶対寄生者においては同所的に生息する異なる属のハネカクシ類から同一種の線虫が得られたことから、宿主種に基づく棲み分けは主に条件的寄生者において起こりやすいと考察した。


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